閉塞性動脈硬化症(ASO)のリスク因子には,加齢,喫煙,糖尿病,高血圧,脂質異常症などがある
ASO患者は冠動脈疾患や脳血管疾患の合併頻度が高いため,下肢虚血によるQOL低下に加え,健康寿命が短く生命予後が不良であるという深刻な問題を抱えている
無症候性および間欠性跛行患者の下肢予後は比較的良好である。これに対して重症下肢虚血(CLI)患者の下肢予後は不良である
ASOなどの慢性動脈閉塞では,主幹動脈の閉塞に伴い側副血行路が発達する。その臨床症状や病態は,患者の活動性と側副血行路の代償機能により決まる
世界一の長寿国であるわが国には,65歳以上の割合が全人口の27.1%に達するという先例のない超高齢社会が到来している。それに伴い疾病構造も変化し,動脈硬化性疾患が増加した結果,死因の第2位,3位を心臓・脳血管疾患が占めるに至った。老後生活をより良いものにするためには,この動脈硬化性疾患を克服することが重要な課題となっている。
閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans:ASO)は動脈硬化症による慢性下肢動脈閉塞である。動脈硬化症は全身疾患でもあるため,ASOでは,冠動脈疾患や脳血管疾患の合併頻度が高くなる。ASO患者は,下肢虚血による間欠性跛行,安静時疼痛,潰瘍・壊死といったQOLを著しく低下させる障害に加え,健康寿命が短く生命予後が不良であるという深刻な問題を抱えている。本稿では,こういった背景を持つASOの疫学と病態を解説する。
ASOは,原則として足関節上腕血圧比(ankle brachial index:ABI)が0.90未満,または0.90以下をもって診断される(日本循環器学会「末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン(2015年改訂版)」ではABI 0.90以下としている)1)。
日本人の中高年一般住民におけるASOの有病率は,久山町研究などのコホート研究のデータから1~3%と推測されている。また,リスク因子を持つ集団では有病率が増加し,65歳以上の高齢者で3~6%,糖尿病患者で5~10%(高血圧患者ではこれよりやや少ない),冠動脈疾患あるいは脳血管疾患患者で10~20%,慢性腎不全血液透析患者で10~20%と推定される1)。
年齢(60歳以上)や性(男性)といった是正できないASOのリスク因子に加え,是正できるリスク因子でオッズ比が高いとされているのが,喫煙(3~4),糖尿病〔3~4(耐糖能異常でも2.5程度)〕,高血圧(1.5~2)である。それ以外にも,脂質異常症,冠動脈疾患,脳血管疾患,慢性腎不全血液透析,慢性腎臓病,CRP高値,高ホモシステイン血症,血漿フィブリノーゲン高濃度,アルブミン尿などがASOのリスク因子として報告されている1)。
残り5,575文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する