大気環境の悪化は,産業革命以降の大量の化石燃料の消費を主因に引き起こされた。元来,自然界に微量にしか存在しなかった微小粒子や化学物質が大気中に放出され,ヒトに悪影響を及ぼすようになった。
昭和40年代のわが国のエネルギー需要の著明な拡大は,高度経済成長とは裏腹に,大気環境の悪化をまねいたが,公害対策,環境保全対策を経て改善し,現在に至っている。
ところが,再び大気が悪化する傾向がみられている。この再興大気汚染には,急速な経済成長を続けた中国の深刻な環境汚染が大きく関与しており,かつて春の風情として歌に詠まれた黄砂には,ヒトの健康を損なう汚染物質が含まれている。また,最近,火山活動が目立つようになってきたわが国では,火山周辺の居住区に無機粉塵となった火山灰が降り注いでいる。
本特集では,大気環境の悪化に伴う健康障害について,発癌,アレルギー疾患,循環器疾患に焦点をあて解説する。
1 大気汚染の再来と発癌リスクの増加
兵庫医科大学呼吸器内科主任教授 中野孝司
兵庫医科大学呼吸器内科准教授 栗林康造
2 大気汚染と呼吸器・アレルギー疾患
兵庫医科大学公衆衛生学講座主任教授 島 正之
3 大気汚染と脳梗塞・心血管疾患の発生・増悪
京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻環境衛生学講座准教授 上田佳代