統合失調症患者は心血管疾患による死亡率が一般人口の約2倍であり,背景にはメタボリック症候群(MetS)の高い有病率があると思われる
向精神薬の中でも,特に抗精神病薬はMetSの発症に少なからず関与している
抗精神病薬の中でも,第2世代抗精神病薬,特にクロザピンやオランザピンにおいて体重増加,糖脂質代謝異常のリスクが高い
向精神薬による治療を行う場合,定期的なモニタリング(バイタルサイン測定,体重測定,血液検査,心電図)は必須である
精神科薬物治療は目覚ましい進歩を遂げたが,その有効性の反面,副作用の報告も数多くなされるようになった。中でも向精神薬による体重増加や糖脂質代謝異常は,患者の生活の質(quality of life:QOL)や生命予後を左右する重要な問題である。
たとえば,統合失調症患者の自然死による死亡率は一般人口の約2倍とされている。中でも,心血管疾患による死亡率は男性で一般人口の2.3倍,女性では2.1倍に上ると報告されている1)。薬物治療を受けている統合失調症患者の肥満率は40~60%で,一般人口の30%に比して多いという報告がある2)。また,統合失調症患者は一般人口に比して,メタボリック症候群(metabolic syndrome:MetS)の有病率が高いとする報告がある3) 。これらのことが統合失調症患者で,心血管疾患による死亡率が高い原因の1つになっているとも推察される。
MetSは,内臓肥満,インスリン抵抗性・高血糖,脂質代謝異常,血圧上昇といった動脈硬化性疾患と2型糖尿病(type 2 diabetes:T2D)の発症リスク因子が個人に集積した病態である4)。MetS群では,健常群に比してT2Dの発症リスクが3~6倍に上昇し,心血管疾患発症および心血管疾患死のリスクも約1.5~2倍となることから,早期介入の重要性が指摘されている4)。
本稿では,特にMetSとの関連が強く指摘されている抗精神病薬を中心に,体重増加や糖脂質代謝異常について当施設での研究結果もふまえながら最近の知見を紹介する。
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