過活動膀胱と腹圧性尿失禁を有する高齢女性は,治療を諦めて医療機関を受診しなかったり,受診したとしても適切に対応されていないことが多い
わが国において承認されている過活動膀胱治療薬7剤は作用機序から抗コリン薬6剤とβ3アドレナリン受容体作動薬1剤に区分され,「過活動膀胱診療ガイドライン」での推奨グレードはいずれもAである
過活動膀胱治療薬7剤の排尿回数変化量のプラセボに対する平均差は,プラセボ対照無作為化比較試験10試験のメタ解析によると−0.72回である
口内乾燥・便秘の発現率については,抗コリン薬では排尿回数などの有効性指標の改善度が高い薬剤ほど増加するが,β3アドレナリン受容体作動薬ではプラセボとの差はなかった
腹圧性尿失禁の病態は,尿道の支持組織,膀胱,膀胱頸部,尿道,骨盤底の神経や筋肉の機能などが関与し,軽症から中等症には薬物治療が奏効することもあるが,中等症から重症例において解剖学的因子が明らかな症例に対しては外科的治療が適応となる
高齢女性における過活動膀胱と腹圧性尿失禁は,生活の質(quality of life:QOL)を高度に損ねることから,快適な生活を送る上で,これらへの対策はきわめて重要である。日本排尿機能学会が2003年に報告した40歳以上の下部尿路症状(昼間頻尿,夜間頻尿,尿勢低下,残尿,尿意切迫感,切迫性尿失禁,腹圧性尿失禁,膀胱痛など)に関する疫学調査1)によれば,過活動膀胱を排尿回数1日8回以上かつ尿意切迫感が週1回以上と規定すると,男女ごとに区分されてはいないが,男女合わせて過活動膀胱を有する人は810万人と推定されている。過活動膀胱の重症例に起こる切迫性尿失禁や腹圧性尿失禁については男女ごとに推定されており,女性での推定人数はそれぞれ460万人,377万人に達しており,切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁の年齢別・性別の有症状率は加齢により明らかに増加している(図1)1)。過活動膀胱と腹圧性尿失禁を有する高齢女性は,治療を諦めて医療機関を受診しなかったり,受診したとしても適切に対応されていないことが多い。本稿では,過活動膀胱と腹圧性尿失禁に対する薬物療法について,「過活動膀胱診療ガイドライン」2)と「女性下部尿路症状診療ガイドライン」3)を参考に述べる。
残り4,781文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する