腹圧性尿失禁・骨盤臓器脱は,骨盤底脆弱化に起因し,女性が産み働くがゆえに悩む頻度の高いQOL疾患である
腹圧性尿失禁では,毎日尿が漏れる,職業やスポーツに支障をきたすなど,治療ニーズの高さが手術紹介の決め手になる
腹圧性尿失禁の低侵襲メッシュ手術(TVT手術,TOT手術)は,ゴールドスタンダードとして確立している
骨盤臓器脱では,メッシュ関連合併症への米国食品医薬品局(FDA)の警告以降,経腟メッシュ手術(TVM),従来型の骨盤臓器脱手術(NTR),腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)の使いわけが模索されている
男女問わず高齢者では排尿の悩みが多く,わが国では60歳以上の男女78%が何らかの下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)を有すると報告されている1)。LUTSの症状は性差が大きく関係するため,日本排尿機能学会は「男性下部尿路症状診療ガイドライン」2),「女性下部尿路症状診療ガイドライン」3)を別個に作成した。男性LUTSのキーワードが前立腺なら,女性LUTSのキーワードは骨盤底であろう。女性では,骨盤底の構造的弱点,分娩や加齢による脆弱化を背景として,腹圧性尿失禁・骨盤臓器脱という中高年女性の重要なQOL(quality of life,生活の質)疾患が生じる。
咳や運動で腹圧がかかると漏れる腹圧性尿失禁,膀胱や子宮が下がり多彩なLUTSを伴う骨盤臓器脱は,かかりつけ医もしばしば遭遇する疾患であり,症状診断でかなりの見当をつけられる。骨盤底筋訓練(pelvic floor muscle training:PFMT,ガイドラインで推奨グレードA)3)や生活指導がベースとなるほか,低侵襲メッシュ手術の登場が治療を大きく変えた。腹圧性尿失禁では,1999年からわが国に導入されたTVT(tension-free vaginal tape)手術4) とその変法が,低侵襲性と安定した長期成績でゴールドスタンダードとして確立している3)。骨盤臓器脱では,2005年頃から経腟メッシュ手術(tension-free vaginal mesh:TVM)が普及したが,11年の米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)の警告以降,従来型の骨盤臓器脱手術(native tissue repair:NTR)の見直し,腹腔鏡下仙骨腟固定術(laparoscopic sacral colpopexy:LSC)の導入など,手術法が分散している。腹圧性尿失禁の手術療法が安定期の江戸時代なら,骨盤臓器脱の手術療法は戦国時代,あるいは三国分立の三国時代と言えよう。
女性尿失禁のタイプ別による割合は,腹圧性尿失禁が約5割,切迫性尿失禁が約2割,両疾患のある混合性尿失禁が約3割と言われている5) 。日本排尿機能学会が行った大規模疫学調査でも,40歳以上の女性の有病率は,腹圧性尿失禁22.4%,切迫性尿失禁7.0%,混合性尿失禁13.7%と上記と同様の割合であった1)。腹圧性尿失禁の診断では,手術時はスクリーニングの尿検査,残尿検査に加え,ストレステスト,パッドテスト,ビデオ尿流動態検査などで裏づけをとるが,初期診療は症状診断でほぼ道筋がつく。腹圧に一致して漏れるのか(腹圧性),尿意切迫感を伴って漏れるのか(切迫性)をとらえ,補足確認する。
腹圧性尿失禁は,通常は安静臥床時には起こらず,①咳・くしゃみ,②スポーツ,③歩行・走行・重い物を持つ,といった特徴的状況で起こる6)(図1)。患者に尿失禁の頻度,重症度,パッド使用の状況とともに,日常生活,スポーツ,外出,旅行や職業6)にどのような支障をきたすかを具体的に聞くと,治療ニーズがみえてくる。混合性尿失禁では,腹圧性,切迫性のどちらが優位かを確認して治療方針を考える。
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