去る9月12日から4日間にわたり,欧州糖尿病学会(European Association for the Study of Diabetes:EASD)第53回学術集会が,リスボン国際見本市会場(ポルトガル)で開催された。会期中,130カ国から約1万5000人が参加した。心血管系大規模臨床試験の結果を中心に報告したい。
わが国からは“J-DOIT3”が報告された。「血糖・血圧・脂質」に対する多面的強化治療の有用性を検討したランダム化試験である。2型糖尿病例への多面的強化治療は2003年,160例を対象にした小規模ランダム化試験“Steno-2”で,心血管系イベント抑制作用が報告されている1)。しかしJ-DOIT3では,多面的強化治療の有用性は認められなかった。東京大学糖尿病・代謝内科教授の門脇 孝氏が報告した。
J-DOIT3の対象は,高血圧と脂質異常症(脂質低下薬服用の正常値例を含む)を合併する,未治療ないし経口血糖低下薬1剤(±αグルコシダーゼ阻害薬)服用で「HbA1c≧7.0%」の2542例である。1次予防,2次予防は問わない。試験開始時の背景因子を見ると,HbA1cは8.0%,血圧はおおむね135/80mmHg,LDLコレステロール(LDL-C)は125mg/dLだった。これら2542例は「通常」治療群と「強化」治療群にランダム化され,非盲検下で追跡された。「強化」群ではHbA1c,血圧,脂質代謝のすべてで,「通常」群に比べ厳しい管理目標値が設けられている。
その結果,到達HbA1cは「通常」群の7.2%に対し,「強化」群では6.8%と有意に低値となっていた。同様に,血圧は「129/74mmHg vs. 123/71mmHg」,LDL-Cも「104mg/dL vs. 85mg/dL」と,「強化」群でいずれも有意に低値となっていた。しかし,およそ9年間の追跡期間中,1次評価項目である「死亡,脳卒中,心筋梗塞,冠・脳血行再建術,頸動脈内膜剝離・ステント留置」のリスクは「強化」群で低くなったものの〔ハザード比(hazard ratio:HR):0.81〕,有意差とはならなかった〔95%信頼区間(confidence interval:CI):0.63~1.04〕。また,当初の1次評価項目*だった「死亡・脳卒中・心筋梗塞」のみで比較しても,有意差とはならなかった(95%CI:0.54~1.01)。J-DOIT3研究グループは,2021年まで観察を継続する予定である〔ClinicalTrials.gov(2017年8月2日)〕。なお本試験は,本記事脱稿後,Lancet DE誌に論文が公表された2)。
*イベント数が当初想定の半分程度だったため,非盲検試験ではあるが「冠・脳血行再建術,頸動脈内膜剝離・ステント留置」を追加3)
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