【司会】杉 薫(小田原循環器病院病院長)
【演者】池田隆徳(東邦大学大学院医学研究科循環器内科学教授)
日本人の突然死はトイレと脱衣所を含めた浴室で起きていることが多い
リスクの層別化に有用な一般検査として,12誘導心電図,心エコー,ホルター心電図などがある
突然死の予知指標には電気生理学的検査(EPS),心室レイトポテンシャル(LP),T波オルタナンス(TWA)などがある
突然死の予知指標を計測する場合は,β遮断薬を含めた抗不整脈薬の作用に気をつける
ハイリスクの患者に対して,手持ちの心電学的指標を駆使して評価しておくことが重要である
突然死の直接原因のほぼ100%は不整脈です。その中でもほとんどが心室性の不整脈である心室細動だということがわかっています。
欧米では,虚血性心疾患が突然死の原因のほとんどで,朝方にピークを迎えます。しかし,わが国では二峰性で,夕方にも大きなピークがあります。また,中高年以上では,突然死は朝ではなく夕方から夜に起きているということもわかってきました。
では,突然死はどのような場所で起きているのか。パブリックスペースや学校などではなく,病院でもない。ほとんどは自宅で,特にトイレと脱衣所を含む浴室で起きています。最近ヒートショックが言及されていますが,これは日本人に多い。日本人は風呂が好きです。熱い風呂に入って,不整脈を惹起する,あるいは血圧の急激な上昇をもたらす,とされるようになりました。
突然死にはそれなりの原因があります。もともと心臓に持病のある人が90~95%で,そのうち冠動脈疾患が50~60%,特発性心筋症が30~35%で,いずれにしても器質的疾患を持っていることが多い。ちなみに,欧米では冠動脈疾患が80%を占める一方,心臓にまったく病気がなかった人も5~10%います。
そこで近年注目されているのが,QT延長症候群,QT短縮症候群,Brugada症候群,学童に多いカテコラミン誘発性多形性心室頻拍などの遺伝性の不整脈症候群です。つまり,日本も突然死の原因として最も多いのは冠動脈疾患である,ということです。
植込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator:ICD)は,突然死を予防する体内植込みの装置です。しかし,ICDにまつわる奇妙な現象があります。米国では突然死を起こす原因の80%が冠動脈疾患で,10%が心筋症です。高価なICDを入れている患者の疾患像と,実際に突然死する疾患像の比率がパラレルなのです。一方,日本でのICDは冠動脈疾患が28%,心筋症などが40%,かつBrugada症候群やQT延長症候群などの特発の病態が20%を超えているという状況です。これは,実情に即していません。そこで,適切な症例に高価なICDを入れようではないか,ということで,欧米のガイドラインを参考にして,わが国でもガイドラインが作成されるようになりました。
不幸な突然死をどうすれば防ぐことができるのか。誰もが最初は難しい指標等々に注目しますが,実は簡単な指標でも突然死はある程度推測できるような時代になっています。
循環器のルーチン検査は,BNPやGFR,X線,心エコー,12誘導心電図,ホルター心電図,運動負荷心電図などがあります。この中の12誘導心電図と心エコー,ホルター心電図について述べていきます。
通常の心電図では,QT時間延長,QT間隔延長,T peak-end時間増大が突然死の予知に比較的有用とされています。これらは先天性/後天性のQT延長症候群を鑑別するのに非常に適しています。QTは,正常では男性で0.44秒,女性で0.46秒未満と言われるのですが,0.5秒以上に延びている場合が問題になります。QTが延びると,torsades de pointesという致死性の心室性不整脈が起きますから,注意を要します。
QT間隔指標はQT時間とRR間隔をプロットし,スロープをつくるというものです。ちょっとしたソフトウェアがあれば簡単に計測でき,比較的エビデンスが高い指標です。
再分極異常では突然死が起きるとよく言われますが,この再分極異常はQTで測ります。QT時間というのはQ波の始まりからT波の終わりまでです。再分極がT波ですからQRSも含んでいます。本来の再分極だけではなく脱分極も含んでいます。であれば,脱分極を除いて再分極だけを見ようではないか,ということで,本来ならばT波の始まりから終わりまでを調べればよいのですが,T波の始まりはST部分にあるため,始まりがわかりません。それに対して , T波のピークは見やすい。そこで,endで見ようではないか,ということで,T peak-end時間が着目されました。これは比較的簡単です。ちなみに,カットポイントは100msecで,これより上だと突然死が起こりやすいと言われています。
非常に有用なのが左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)です。LVEFは,予後調査におけるgold standardな突然死の予知指標とされています。冠動脈疾患では,最も信頼できる指標として確立しており,拡張型心筋症でも最も有用な指標とされています。カットポイントは40%あるいは35%以下です。左室機能低下例へのICD植込みの予後改善効果をみたMADIT Ⅱ トライアルでは,LVEFが30%以下まで低下していれば,ICDを植込んでもよいのではないか,という結果が示されました。LVEF 30%以下という条件下で,植込み群と対照群間で予後が全然違いました。
ホルター心電図から拾える指標には,心室性期外収縮(premature ventricular contraction:PVC)がありますが,非持続性心室頻拍(nonsustained ventricular tachycardia:NSVT)も昔から使われていて,多くのエビデンスがあります。
NSVTの定義は,以前は3連発以上で,周期が100/分以上とすることが多かったのですが,異なる定義でしっかりやれば,この指標も捨てたものではない,ということが, MERLIN-TIMI 36トライアルで示されました。
PVCの数や形態は,NSVTに比べるとエビデンスレベルは劣ります。冠動脈疾患や心筋症のみならず,非器質的な病態にも有用です。
MERLIN-TIMI 36トライアルでは6連発,8連発以上などと定めると,とてもよい指標になることが報告されました。Kaplan-Meier法で見ると,8連発以上で非常に有用な指標として活用できることがわかります。
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