基底細胞癌は,最も頻度の高い皮膚癌であり,高齢者に多い。白人に多く,オーストラリアでは人口10万人対1000人程度であるが,わが国では2~4人程度である1)。
転移は稀であるが,局所浸潤性は強い。早期に発見して切除すれば完治できるが,根治切除不能な症例の治療は困難である。
近年,種々の分子標的薬が開発され,皮膚科領域では,悪性黒色腫治療における分裂促進因子活性化蛋白質キナーゼ(MAPK)経路の活性化を阻害するBRAF阻害薬やMEK阻害薬が既に実臨床で使用されている。
基底細胞癌においては,多発する若年発症基底細胞癌,顎骨囊胞,骨形成異常などを伴う常染色体優性遺伝性の基底細胞母斑症候群の原因遺伝子として,ヘッジホッグシグナル伝達系の抑制性受容体をコードするPTCH1遺伝子変異が同定された。その後,孤発性の基底細胞癌においてもこのシグナル伝達系が常に活性化されていることが明らかになった。
この伝達系を阻害する薬剤としてvismodegibが開発された。海外での第2相臨床試験における奏効率は,局所進行性63例で43%,転移性33例で30%であった2)。わが国においてはまだ使用できないが,手術不能な症例に対する治療手段として期待されている。
【文献】
1) 竹之内辰也:日臨. 2013;71(増刊4):577-81.
2) Sekulic A, et al:N Engl J Med. 2012;366 (23):2171-9.
【解説】
井上卓也 佐賀大学皮膚科准教授