(山形県 E)
多量の飲酒が健康リスクを高めることは言うまでもありませんが,少量の飲酒が健康に及ぼす影響は疫学研究を中心に検討されてきました。コホート調査を用いて飲酒量と総死亡のリスクを検討したところ,まったく飲酒しない者より少量飲酒する者のほうが死亡のリスクが低いことが示され,飲酒量と死亡の相対危険度のグラフの図形からアルコールの“Jカーブ効果”または“Uカーブ効果”などと呼ばれるようになり,少量飲酒の健康面のメリットとされるようになりました。
このような研究の多くは北米や欧州の大規模コホート調査を用いたものですが,日本国内からも大規模コホート調査の結果が報告されています。人種が結果に影響するとの指摘もあり1),ここでは国内の6つの大規模コホート研究のプール解析を行った論文から結果をご紹介します2)(図1)。
この研究は,多目的コホート研究(JPHC-Ⅰ,JP HC-Ⅱ),JACCスタディ,宮城県コホート研究,大崎国民健康保険コホート研究,高山コホート研究の6つのコホート研究のデータをプール解析したものです。対象者の総数は30万9082人(男性14万4012人,女性16万5070人)で平均追跡期間は12.4年です。グラフの「禁酒者」とは,以前に飲酒していたが何らかの理由で現在禁酒している者です。一般的に禁酒者には健康問題を持つ者が多く含まれると推測されます。一方,非飲酒者はもともと飲酒しない者を指します。調査時点で飲酒していない者には非飲酒者と禁酒者が混在しますが,後述のように双方を一緒に非飲酒とすると結果が異なることが指摘されているため3),ここでは非飲酒者と禁酒者を区別している4件のコホート調査の解析結果を示しています。
解析の結果,図1のように男女とも非飲酒者より低頻度飲酒者(週1回未満)や1日に純アルコールで23g未満(日本酒1合またはビール500mL程度に相当)の少量飲酒者で総死亡のハザード比が有意に低く,いわゆるJカーブのパターンを示しました2)。図1には示していませんが,男性ではがん,心血管疾患,脳血管疾患による死亡も総死亡と類似のパターンであったことが報告されています。リスクを下げるメカニズムについては推測の域を出ませんが,少量飲酒によるHDLコレステロールの増加,インスリン感受性上昇,血小板凝集の抑制,抗炎症作用などが考えられています4)。
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