胸部大動脈領域におけるステントグラフト治療には,真性瘤と大動脈解離の治療がある。真性瘤には,下行大動脈ではステントグラフト治療が第一選択で,上行大動脈では基本的には適応外である。弓部大動脈では,現時点での標準術式は人工血管置換術とされているが,高齢,COPD,高度心・腎・肝障害や担癌状態などのハイリスク症例では低侵襲性からステントグラフトを用いた手術が考案され適用されている1)。通常,脳血流を確保するバイパスを作製後ステントグラフトを留置する。つまり,大動脈瘤が中枢側に及ぶほど手技も複雑となり,周術期の脳梗塞など様々な問題が起こりうる。ステントグラフト留置時の脳梗塞の予防法には,弓部分枝の一時フィルターの留置,バルーンによる一時閉塞などがあるが十分とは言えない。今後,医工連携によるデバイスの進化により分枝付きのステントグラフトが登場すると思われるが,脳合併症の予防は最優先の課題である。
大動脈解離に対しては,B型解離がステントグラフト治療の良い適応である。特に合併症を伴った急性B型解離には第一選択となっている。合併症を伴っていない慢性B型解離に対してもステントグラフト治療が積極的に行われるようになっている2)。しかし,適切なエントリー閉鎖や残存リエントリーの問題など,いまだ課題は多い。
【文献】
1) Kato N, et al:Cardiovasc Intervent Radiol. 2002;25(5):419-22.
2) Nienaber CA, et al:Circ Cardiovasc Interv. 2013;6(4):407-16.
【解説】
藤本鋭貴*1,北川哲也*2 *1徳島大学心臓血管外科 *2同教授