(佐賀県 M)
終末期肺炎という用語は規定されていないため,高齢者誤嚥性肺炎に対する抗菌薬治療時のアルブミン値の目安について回答します。
よく知られているように,低アルブミン血症は,高齢者の肺炎の予後規定因子の1つです1)。その理由の1つが,低アルブミン血症による抗菌薬の作用の減弱です。
抗菌薬の分布容積およびクリアランスは,抗菌薬の蛋白結合率の影響を受けます。低アルブミン血症では,遊離抗菌薬濃度の上昇に伴いクリアランスと分布容積も著明に上昇することで,抗菌薬の作用の減弱につながります2)~4)。特に蛋白結合率の高い抗菌薬であるセフトリアキソン(ceftriaxone:CTRX),クリンダマイシン(clindamycin:CLDM),セフォペラゾン(cefoperazone:CPZ),ガレノキサシン(garenoxacin:GRNX),テイコプラニン(teicoplanin:TEIC)などが影響を受けやすくなります。また,この悪影響は,時間依存性の抗菌薬(CTRX,CLDMなど)でより大きくなると考えられます。これらは,在宅医療でも重要な薬剤であるため,栄養状態,血漿蛋白濃度の把握は重要です。
では,実際に判断基準になる濃度についてですが,確立した明確な指標はありません。しかし,臨床的な経験からは,2.5g/dL以上は必要だと考えます。もちろん,この2.5g/dLという絶対値がとても重要な意味を持つわけではありませんが,これ以下の場合は,抗菌薬の十分な効果は期待できないと考えます。この場合,抗菌薬選択にあたって,蛋白結合率があまり高くない薬剤を選択することも考慮する必要があります。さらに血漿蛋白濃度が2g/dL未満では,抗菌薬の細菌に対する効果は相当薄れると思います。この場合は,抗菌薬の投与自体が過剰な医療行為である可能性があり,主治医が終末期肺炎と判断すれば,抗菌薬投与を差し控える目安になる可能性もあると考えます。
ただし,アルブミン値は測定法によりかなり誤差がみられます。アルブミン濃度を測定する色素結合法には,用いる色素によってブロモクレゾールグリーン(bromocresol green:BCG)法とブロモクレゾールパープル(bromocresol purple:BCP)法がありますが,BCG法では,アルブミン以外の蛋白(グロブリン)とも反応し,炎症時に特異性が低下する懸念があります。一方,BCP法はグロブリンとほとんど反応しませんが,還元型アルブミンと酸化型アルブミンの反応に差があり,高齢者などで偽高値となる可能性があります。したがって,異常値を確認した後,検査方法の確認も必要です。
さらに,血清アルブミンは臥位より立位で高く,運動で上昇し,早朝より夕方に高い傾向にあります。したがって,臥床状態なのか,測定時間は同じかなどについても配慮する必要があります。
また,アルブミン値だけでなく金属製剤の併用で,ニューキノロン系抗菌薬の腸からの吸収が低下します。高齢者の便秘で汎用されるマグネシウム製剤や骨粗鬆症のためのカルシウム製剤は一時的に中止する必要があります。多剤併用が多い高齢者では,これらの配慮も重要なポイントです。
【文献】
1) Lim WS, et al:Eur Respir J. 2001;18(2):362-8.
2) Ulldemolins M, et al:Clin Pharmacokinet. 2011; 50(2):99-110.
3) Mizuno T, et al:Clin Interv Aging. 2013;8: 1323-8.
4) Gonzalez D, et al:Clin Microbiol Rev. 2013;26 (2):274-88.
【回答者】
寺本信嗣 和光駅前クリニック