肺非結核性抗酸菌(NTM)症は増加が続いており,2014年の罹患率は14.7/10万と菌陽性結核の罹患率(10.7/10万)を超えたことが明らかとなった
わが国では,肺MAC症が肺NTM症の約90%を占める。また,肺M. abscessus症の増加傾向が認められ(3.3%),肺M. kansasii症(4.3%)に迫る割合となっている
肺NTM症による死亡数は女性優位に増加が続いており,2014年には1300例を超えた
治療後の再感染の頻度が高いことから,環境因子や宿主因子の解析が重要となっている
肺非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria:NTM)とは,抗酸菌(染色後に酸性アルコールなどを使っても脱色されない性質を持つ菌)の中で,結核やらい菌(ハンセン病の原因菌)以外の菌のことをいう。NTMは,土壌や水系などの自然環境に加えて,水道・貯水槽などの給水に関わる生活(家庭)環境に広く生息しており,通常,人-人感染をきたすことはない。NTMは,大きく頸部などのリンパ節炎,皮膚軟部組織病変,播種性感染症,肺疾患をきたすが,最も頻度が高いのが肺NTM症である。
肺NTM症は,感染症としての報告義務がないことから,正確な疫学データを得ることは困難である。よって様々な手法により導かれたデータが,主に欧米より州,国レベルで報告されている。これらのデータにおいて最も重要なのは人口ベース(10万人あたり)であるか否かである。また,罹患率(一定期間に肺NTM症を発症した人の単位人口に対する割合),有病率(一点の時点でNTMに罹患している人の単位人口に対する割合),期間有病率(ある期間にNTMに罹患している人の単位人口に対する割合),分離頻度(1人の患者が複数回同定されることを考慮し,species/patients/yearで表す)などの情報に,長期的な増減の有無,地理(海沿い,都市部など),性別,年齢,病型の違いができる限り付与されることが望まれる。
わが国の肺NTM症の罹患率は1970年以後増加が続いており,1990年以後の増加が顕著であることがわかっている。これは1970年代より国立療養所非定型抗酸菌症共同研究班により確立された,世界的にも特異な調査手法(新規診断されたNTM・結核比と結核の統計で得られる活動性肺結核罹患率の積を算出する手法)が一貫して使われてきたためであり,2007年の全国調査では5.7/10万とされていた1)2)。2014年に日本医療研究開発機構(AMED)の支援により7年ぶりの全国調査が行われ(阿戸班:御手洗分担),罹患率は約2.6倍の14.7/10万と菌陽性結核の罹患率(10.7/10万)を超え,わが国の肺抗酸菌症は新たな時代へ移ったことが明らかにされた(図1)3)。菌種構成は1971年当時,Mycobacterium avium complex(MAC) 96%,Mycobacterium kansasii(M. kansasii) 3.8%とされていたが,2014年調査でも同様にMACが多数(88%)を占めることがわが国の特徴であることが示された。近年,M. abscessusが増えているという意見があったが(3.3%),今回の調査ではM. kansasii(4.3%)に近い値まで増加していた。肺MAC症に合併,続発する例が一定の割合存在するならば,M. abscessusが増加してきていても不思議ではなく,今後も注視していく必要がある。
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