破裂性腹部大動脈瘤はきわめて致死率の高い疾患である。唯一の治療方法は開腹による人工血管置換術であったが,最近はステントグラフト(SG)治療の有用性が報告されている。しかし現時点では,複数の比較試験においてその優位性は証明されていない1)2)。
破裂性腹部大動脈瘤に対するSG治療の長所は,開腹しないため手術時の出血に苦労しない,術後の立ち上がりが早く自宅退院率が高い,などである。問題点は,施設によってはデバイスがすぐに準備できない,術後の腹部コンパートメント症候群(ACS)への対応に苦慮する,ことが挙げられる。ACSを防ぐには,術前の輸液を最低限にとどめ血管外漏出を抑え,できるだけ早く手術を開始することが重要である。またACSが疑わしい場合は,適時に開腹を行い減圧する必要がある。術中はaortic occlusion balloon(AOB)の有用性の報告もあるが,デバイスが準備できていればメインボディ挿入を優先し,その後AOBの使用を検討してもよい。破裂性腹部大動脈瘤に対し,開腹人工血管置換術を行うかSG治療を行うかは施設間で得意度もあるが,SG治療はより本症の予後改善の可能性がある治療と思われる。速やかにSG治療を行うには,解剖学的適応を考慮した術前の血管計測,プランづくりが重要で,普段から迅速に対応できるトレーニングをしておく必要がある。
【文献】
1) IMPROVE Trial Investigators, et al:BMJ. 2014; 348:f7661.
2) Reimerink JJ, et al:Ann Surg. 2013;258(2): 248-56.
【解説】
藤本鋭貴*1,北川哲也*2 *1徳島大学心臓血管外科 *2同教授