我々の身の回りには多くの化学物質が存在している。米国化学会のChemical Abstracts Service(CAS)レジストリには1億3000万件を超える化学物質が登録されており,急速に増加しつつある。これらの化学物質は医薬品,食品添加物,洗剤をはじめとする身近な生活用品に使用されており,我々の生活と切り離すことができない。その一方で,化学物質の中には比較的低濃度でもヒトの健康に悪影響を及ぼす可能性が指摘されているものもある。特に,胎児~小児期は化学物質に対して脆弱であると考えられている。
1997年に米国のマイアミで開催された先進8カ国環境大臣会合において,小児環境保健対策は環境問題の最優先事項とされ,欧州諸国を中心に子どもの健康と環境の関連を明らかにするための大規模な疫学研究が行われるようになった。
わが国では,2011年から環境省によって「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」が実施されている。この調査は全国15地域において10万組の親子を対象として,妊娠中から子どもが生まれて13歳に達するまでフォローアップを行う大規模な出生コホート研究である。参加登録は3年間かけて行われたため,調査に参加している子どもは3歳の年齢幅があり,最年長児は18年に小学校に入学する。現在,母親の妊娠中に採取された生体試料の化学分析も進められている。この調査によって,胎児~乳幼児期における化学物質への曝露や生活環境と子どもの健康との関連が明らかとなり,化学物質などの適切なリスク管理体制の構築につながることが期待される。
【解説】
島 正之 兵庫医科大学公衆衛生学主任教授