甲状腺眼症は,重症例では複視や視力障害をきたすが,適切な治療法がない。最近,インスリン様成長因子1受容体(IGF-1R)を阻害することにより,眼症の背景にある自己免疫学的病因を減弱させるという新たな治療法が注目されている。
Smithらは,抗ヒトIGF-1Rモノクローナル抗体teprotumumabの有効性と安全性をRCTにより検証した1)。対象は中等度~重度の活動期眼症患者88例である。プラセボ群(A群)と実薬群(B群)に1:1に割り付け,3週ごとに計8回,静脈内投与を行った。主要評価項目は対象眼の治療効果とし,24週時点での2ポイント以上の臨床的活動性スコア(CAS)の低下および2mm以上の眼球突出の減少を「治療効果あり」と定義した。intention-to-treat(ITT)解析の結果,A群45例中9例(20%)に対してB群42例では29例(69%)で治療効果を認めた(P<0.001)。治療効果には即効性があり,B群では6週の時点で43%に効果を認めた(A群では4%)。眼球突出の減少幅,CAS低下幅,QOLスコアの改善度もB群で有意に良好であった。薬剤関連有害事象は糖尿病患者における高血糖のみで,糖尿病治療薬の調整により対処可能であった。
teprotumumabは,活動性甲状腺眼症の新たな治療薬として期待される。今後は,軽症患者に対する有効性や治療効果の長期持続性の検証が必要となる。
【文献】
1) Smith TJ, et al:N Engl J Med. 2017;376(18): 1748-61.
【解説】
井上由佳理 日本医科大学内分泌外科