医薬品開発は伝統的に1~3相に分類され,それぞれ独立した臨床試験が順に行われてきた。現在では,開発に際して施行される試験は多岐にわたり,得られるデータも膨大である。これらのデータや,以前から蓄積された疾患・類薬のデータも含めた情報を用いたモデルに基づいてシミュレーションを行い,科学的・効率的な開発を行おうとするのがMBDD(model based drug development)であり,その解析体系をファーマコメトリクス(pharmacometrics:PMx)と呼ぶ。
PMxの手法には様々なものがある。まず,生体での薬物の動きを解析する薬物動態(pharmacokinetics:PK)モデル,作用を見る薬力学(pharmacodynamics:PD)モデル,両者を同時に解析するPK/PDモデルが基礎にある。これらのモデルは個体内で多くのデータを必要とするため,開発の遅い段階では施行が不向きであるし,小児などの集団では頻回採血が行えない。このため,従来から得られているデータに基づいて,少数のデータから動態を予測する母集団薬物動態解析(population PK:PPK)などが,小児の新薬開発では用いられている。
さらに,PMxに基づいて,早期の段階で得られたデータを用いて臨床試験のシミュレーションを行い,以降の臨床試験における症例の種類と数,適切な評価項目の選択などを決定することにより,効率的な開発を行うことができる。国際共同開発における民族間の類似性の検討にも期待されている分野である。
【解説】
熊谷雄治 北里大学病院臨床試験センターセンター長