一般的な前立腺癌の診断過程は,スクリーニング〔直腸診,血清PSA(前立腺特異抗原)測定など〕で異常を認める場合に,経直腸超音波ガイド下に系統的生検が行われ,組織学的診断により確定診断される。しかし,系統的生検は標的生検でないことから必ずしも病巣に命中するとは限らず,高悪性度の病巣を見逃したり,反対に低悪性度の小さながんが検出される可能性があるなど,問題点も指摘されている。これは,超音波検査では病巣の描出が不十分であることが原因となっている。
近年,1.5テスラMRIに比べて高い空間分解能を有し,より高画質な画像を得ることができる3テスラMRIが臨床現場で普及してきた。加えて,通常のT2強調像に拡散強調像やダイナミック造影像など,複数の機能画像を組み合わせた「マルチパラメトリックMRI」という方法が前立腺癌領域でも応用されるようになった。これらはがん病巣の検出・局在診断における精度向上への寄与だけでなく,悪性度の予測など質的評価における有用性も示されている。
これらの技術の進歩によりMRI検査は,かつては生検で前立腺癌と確定後に,病期診断を目的に実施されてきたが,最近では生検前に実施されることが増えている。高リスク病巣を優先的に生検することによる,臨床的意義の高い前立腺癌の効率的な診断や,低悪性度病変を生検対象から除外することによる,不必要な治療介入の回避への応用が期待されている。さらに,このマルチパラメトリックMRIと超音波検査を融合させたMRI-経直腸エコーfusionガイド下ターゲット生検の有用性の検討が進んでいる。
【解説】
笠原 隆 新潟大学泌尿器科