(高知県 F)
生体は,緩衝系というpH調節機構を持ち,肺,腎,細胞外液を主とする人体最大の緩衝系は重炭酸緩衝系が担い,一方で細胞内の緩衝は主にリン酸緩衝系,蛋白質による緩衝系が担っています。
重炭酸(HCO3−)は,生体内では,次の式
CO2+H2O⇆H++HCO3−(pKa=6.1) で表される平衡状態にあり,腎でのHCO3−再吸収と密接に関わっています。
腎でこの反応を能動的に媒介するのが,尿細管の管腔側細胞膜上にある「炭酸脱水酵素Ⅳ型」と,細胞質内にある「炭酸脱水酵素Ⅱ型」です。前者は,糸球体で濾過されたHCO3−を細胞膜透過が可能なCO2に変換し,後者が細胞質内に入ったCO2をHCO3−とH+に変換します。H+は管腔側の輸送体により排泄され,HCO3−は基底側の輸送体により尿細管細胞から血液中に再吸収されます。この仕組みにより,原理的にはH+の出入りと独立してHCO3−を再吸収することが可能です(図1・2)。
近位尿細管性アシドーシスにおいては,このHCO3−を基底側から再吸収する輸送体(Na+−HCO3−共輸送体)の機能が低下しているため,細胞内HCO3−の濃度が上昇します。このため上記平衡式の右側への反応速度が低下し(ルシャトリエの法則),H+の産生も低下します。したがって糸球体で濾過されたHCO3−の大部分を再吸収できず,しばしば血清HCO3− 10mEq/L前後の重症のアシドーシスとなります(図1)。
遠位尿細管の髄質外層集合管のα間在細胞では,管腔側のプロトンポンプが細胞内から管腔側への酸排出を担っています。このプロトンポンプの機能不全で酸の排泄が滞り,遠位尿細管性アシドーシスを発症することが知られています。この場合は,細胞内H+の濃度が上昇するため上記の式の右側への反応速度が低下します。
また,遠位尿細管性アシドーシスのもう1つの発症機序として,基底側の陰イオン交換輸送体の機能低下によるものがあります。この機序は,近位尿細管性アシドーシスと同様になります(図2)。
炭酸脱水酵素Ⅱ型遺伝子の変異による尿細管性アシドーシスも,症例は少ないものの,知られています。一般に近位および遠位双方の尿細管性アシドーシスを発症し,重症化しやすく,大理石骨病を合併することも知られています。
【参考】
▶ Hamm LL, et al:Clin J Am Soc Nephrol. 2015; 10(12):2232-42.
▶ 堀田晶子, 他:Fluid Manag Renaiss. 2015;5(3): 213-9.
【回答者】
堀田晶子 東京大学大学院医学系研究科・医学部 臨床実習・教育支援室(医学部附属病院 腎臓・内分泌内科)