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小児マイコプラズマ感染症 治療における注意点 [学術論文]

No.4702 (2014年06月07日発行) P.19

尾内一信 (川崎医科大学小児科学教室教授)

田中孝明 (川崎医科大学小児科学教室講師)

河合泰宏 (川崎医科大学小児科学教室)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-31

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  • Mycoplasma pneumoniae(肺炎マイコプラズマ)は,小児市中肺炎の主要な原因菌である。わが国では2000年頃からのマクロライド(ML)耐性肺炎マイコプラズマ感染症の報告以来,その分離率は上昇している。臨床症状が遷延して大規模病院を受診した症例のみならず,診療所からも耐性株が数多く分離されている。しかし,現状ではML耐性か感性か不明時の初期治療はマクロライド系薬(MLs)が第一選択薬である。発熱が続く場合など,効果不十分な患者にはトスフロキサシンやミノサイクリンが第二選択薬として推奨されるが,ミノサイクリンは,8歳未満の小児患者には原則禁忌である。

    1. わが国における肺炎マイコプラズマの流行パターン

    Mycoplasma pneumoniae(肺炎マイコプラズマ)は,市中呼吸器感染症の主要な原因微生物である。特に小児では市中肺炎の10~20%を占め,6歳以上では60%を超える。従来,肺炎マイコプラズマ感染症は4年ごと(オリンピック年)に流行し,「オリンピック肺炎」と呼称されることもあったが,近年その流行パターンは崩れていた。2000年以降では小流行を繰り返していたが,11年半ばから12年末にかけて今までにない大流行を認めた1)
    肺炎マイコプラズマ感染症の治療には,細菌感染症で一般的に用いられているペニシリン系やセフェム系などの細胞壁合成阻害薬は効果がなく,マクロライド系薬(MLs),テトラサイクリン系薬やニューキノロン系薬が有効である。小児における肺炎マイコプラズマ感染症の治療は,MLs経口薬の投与が基本である。しかし,わが国では2000年頃から小児科領域を中心にML耐性肺炎マイコプラズマ感染症が増加している。調査年度,地域によって耐性率は様々であるが,現在流行中の症例から分離される菌株のML耐性率は約90%との報告もみられる2)。臨床症状が遷延して大規模病院を受診した症例のみならず,診療所からも耐性株が報告されている。小児での流行拡大に伴い,ML耐性肺炎マイコプラズマによる成人肺炎例も増加している3)4)。このようなML耐性株による報告例は当初日本のみであったが,最近では中国,欧州,米国など世界的にML耐性株の増加が報告されている5)~8)

    2. 薬剤感受性とマクロライド(ML)耐性メカニズム

    肺炎マイコプラズマのMLsに対する耐性はリボソーム50Sサブユニット中の23SrRNA配列の点変異による。耐性菌では23SrRNAドメインVの2063番目または2064番目のアデニンの変異,2617番目のシトシンの点変異が報告されている。塩基置換が生ずるとその部位の立体構造に変化が生じ,MLsはドメインⅤへの親和性が低下しMLsに耐性化する9)。2000年以降の流行では,2063番目のアデニンからグアニンへの変異(A2063G)株が主流であり,90%以上を占める10)。遺伝子変異による薬剤感受性において,A2063Gの変異では14,15員環MLに対しては一律に高度耐性である。16員環MLに対しては,一定の傾向が認められない。A2064Gの変異では14から16員環すべてのMLに高度耐性である。なお,いずれの変異株もリンコマイシンやクリンダマイシンには高度耐性である。テトラサイクリン系薬,ニューキノロン系薬はML耐性菌に対してもすべて感性である9)。肺炎マイコプラズマの薬剤耐性機構は23SrRNAドメインⅤの点突然変異のみであり,リボソームのオペロンが1組しか存在しないことから,肺炎マイコプラズマはその点変異と薬剤感受性がよく一致する11)。これら変異株の薬剤感受性成績を表1に示す12)~14)

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