鉄は酸素運搬・取り込み,エネルギー産生に関与し生体にとって非常に重要な役割を果たす必須の元素である。一方で過剰となるとフェントン反応を介して活性酸素が産生され,様々な臓器障害や,発がんとの関連も指摘されている
慢性腎臓病(CKD)症例は,鉄欠乏にも鉄過剰にも陥るリスクが高いとされている。よってCKD症例の貧血管理において鉄の管理は非常に重要な役割を果たす
海外とわが国とのガイドラインでは,鉄の評価および管理が大きく異なる。現在,わが国のCKD症例に適した鉄管理の提案が求められている
CKD症例は消化管での鉄吸収は低下していると考えられ,静注鉄剤が推奨されてきたが,近年,経口鉄剤の有用性も示されている。患者の状況により鉄投与経路を選択することが望ましい
慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)症例の多くは貧血を伴う。その原因の多くはエリスロポエチン産生低下に伴う腎性貧血であるが,erythropoiesis-stimulating agents(ESA)投与の際の,造血に伴う消費による鉄欠乏や,血液透析(hemodialysis:HD)症例においては,透析回路・透析膜内の残血・採血の際の出血に伴う鉄喪失による鉄欠乏に陥る症例も存在する。また,他の疾患症例よりも鉄補充療法を受ける機会が多くなる。よって,CKD症例における鉄欠乏・鉄過剰の早期発見の観点から,日本透析医学会の「2015年版 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」は,鉄補充中の症例はもちろんのこと,貧血を伴うもしくは貧血の治療を受けているCKD症例に対して定期的な(貧血の症例は3カ月ごと,鉄補充中の症例は1カ月ごと)血清フェリチン値やトランスフェリン飽和度(transferrin saturation:TSAT)を用いた鉄の評価を推奨している。