赤血球造血刺激因子製剤(ESA)低反応性(ESA hyporesponsiveness)は明確な定義はないものの,一定のESA投与量に対するヘモグロビン(Hb)上昇が乏しい状態である
ESA低反応性を有する症例は,心血管イベントのリスクや死亡率が有意に高いことが判明している
ESA低反応性を有する症例ではESA増量よりも,ESA低反応性を引き起こす原因検索を施行し,その原因に対する適切な治療介入を施行することが優先される
腎性貧血は慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)における代表的な合併症のひとつであり,「腎臓においてHbの低下に見合った十分量のエリスロポエチン(erythropoietin:EPO)の産生がされないことによって引き起こされる貧血であり,その主因が腎障害以外に認められないもの」と定義されている。心血管系疾患(cardiovascular disease:CVD)発症やQOL低下に寄与し,生命予後不良因子となるため適切な介入が必要である。
腎性貧血に対する治療は輸血,鉄剤投与,赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis stimulating agent:ESA)投与が行われる。CKD患者にESAを投与しHbが上昇することにより,生命予後の改善,入院期間の短縮,輸血投与量の減少,QOLの向上がみられることがメタアナリシスにて示されている1)。
しかし,Hbを上昇させすぎることでかえって有害事象が増加するという報告が散見されるようになった。CKD患者に対してESA投与とCVD発症リスクについて検討した代表的な研究としてCHOIR研究2),CREATE研究3),TREAT研究4),Normal Hematocrit5)研究が存在する。各々の研究の特徴を表1に示す。これらの研究で共通していることは,CKD患者において予後が良いとされていた高Hb値をESA投与にて達成することで,かえって死亡,心血管系イベントが増加したということである。
高Hb値を目標とすることがなぜ予後不良と関連するのかを検討するため,CHOIR,TREAT,Normal Hematocrit研究のpost-hoc研究が施行された6)~8)。これらの研究により,高Hb値そのものではなく,高用量のESAを投与しているにもかかわらずHb値の上昇が乏しい症例,つまりはESA低反応性(ESA hyporesponsiveness)を有する症例において,死亡や心血管系イベントが多いことが示された。それゆえ,ESA低反応性を有する症例にESA投与量を増加させることは危険であり,ESA低反応性の原因となっている病態について考慮する必要がある。