▶ 下痢症へのアプローチがワカル
▶ 主訴:発熱・食欲低下
▶ 現病歴:来院9日前から37℃台の発熱、食欲低下があり、外来を受診した。身体所見上、左腹部~背部にかけての疼痛あり、血液検査にてWBC 9300/μL、CRP3.71mg/dL、尿検査にてWBC(3+)であり、尿路感染症の診断でレボフロキサシン内服を開始した
▶ 既往歴:20歳 虫垂炎手術、60歳 高血圧、65歳 関節リウマチ
▶ アレルギー:特記すべきことなし
▶ 内服薬:アテノロール25mg/1日1回 朝食後、バルサルタン80mg/1日1回 朝食後、トリクロルメチアジド2mg/1日1回 朝食後、辛夷清肺湯2.5g(EK-104)/1日3回 毎食前
▶ 身長:150cm、体重:42kg
▶ バイタルサイン:体温 37.7℃、血圧 144/62mmHg、心拍数 66/分
▶ 呼吸数 18/分、SPO2 95%(room air)
▶ 意識レベル:清明
▶ 頭部:眼瞼結膜軽度に貧血あり、口腔内咽頭発赤なし、扁桃腫大なし
▶ 頸部:甲状腺・リンパ節異常なし
▶ 胸部:心音・呼吸音正常
▶ 腹部:平坦・軟、腹部蠕動音正常、左腹部~背部にかけて軽度圧痛あり・反跳痛なし
▶ 四肢:浮腫なし、皮疹なし、両PIP関節腫脹あり
▶ 神経学的所見:特記すべき異常所見なし
WBC・CRPともに上昇があり、貧血・低アルブミン血症を伴っていることがわかった。
尿検査にて、WBC(3+)であり、左側腹部軽度圧痛の所見と併せて、尿路感染症の診断にて抗菌薬内服を開始した。
抗菌薬内服加療後も、37℃台の発熱が継続し、また3カ月前からの軟便・2日前からの水様性下痢が1日2回程度認められるようになり、脱水・食欲低下も認められることより、食欲低下・下痢の精査加療目的にて入院となった。
追加すべき問診事項は?
▶ 生もの摂取歴なし、魚介類なし、鶏肉なし
▶ 抗菌薬やプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)などの薬剤摂取歴→抗菌薬(レボフロキサシン)・漢方薬(辛夷清肺湯)
▶ 旅行歴:国内・国外ともになし
▶ 周囲に同様の症状の者なし
▶ 腹痛の有無なし、以前の便通:1日1~2回軟便、肉眼的な血便はなし
▶ 体重の推移:3カ月で1kg程度体重減少
▶ 下痢は、3カ月前より1日2回程度の軟便、数日前より水様性下痢1日3~4回程度
この症例では、鑑別診断は何を考えますか?
まずは急性下痢症を考えて
▶ 感染性腸炎
▶ 細菌性腸炎(キャンピロバクター・サルモネラ・病原性大腸菌等)
▶ ウイルス性腸炎(ロタウィルス・ノロウィルス・アデノウィルス等)
▶ 寄生虫(赤痢アメーバ・クラミジア・ランベル鞭毛虫)
その他として
▶ 薬剤性腸炎〔偽膜性腸炎・出血性大腸炎・非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)関連〕
▶ 下剤使用によるもの
▶ 虚血性腸炎
などの頻度の高いものから鑑別を考えた。
追加検査は何をしますか?
▶ Salmonella、Vibrio、Campylobacter など便培養陰性
▶ Clostridium difficile 2回施行するも陰性
▶ アメーバ(-)
▶ 潜血反応:2日法でともに陽性
明らかな異常所見なし。
抗菌薬内服加療後からの下痢悪化が認められたこともあり、clostridium difficile infection(CDI)の可能性を考慮し、便にてclostridium difficile反応検査を2回施行するも陰性、便培養施行するも陰性。偽陰性の可能性も考慮し、メトロニダゾールの内服を開始したが下痢の改善は認められなかった。
薬剤性腸炎の可能性も考慮し、以前より内服している漢方薬も含めて中止し経過観察したが、下痢の改善はなかった。
次にどのような検査を行いますか?
大腸内視鏡検査
全大腸特にS状結腸を中心に、血管透見性の消失、粘膜面のびらん・潰瘍性病変の所見が認められた。
下部消化管内視鏡検査を施行した際の大腸びらん・潰瘍からの生検にて、AAアミロイドーシスの所見が認められ、診断は消化管アミロイドーシスとなった。
消化管アミロイドーシス
アミロイドーシスは、不溶性蛋白であるアミロイドが臓器に沈着することにより惹起される障害の総称である。消化管は心臓・腎臓とともに障害される臓器のひとつ。その中でもAAアミロイドーシスは、関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)などの慢性炎症性疾患に合併することが知られており、続発性ないし反応性アミロイドーシスと呼ばれている1)。
原因疾患としては
・慢性感染(結核・骨髄炎)
・慢性炎症性疾患〔RA・炎症性腸疾患・気管支拡張症・慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)〕
・悪性疾患
などが挙げられる。
慢性下痢・血便
顆粒状粘膜所見・発赤・びらん・潰瘍・易出血性。初期にはほぼ正常に見える軽微な変化のみで、沈着が高度化するとびらん・潰瘍が形成される1)。
経過:急性下痢、慢性下痢(3、4週以上持続)
病因:感染性、非感染性
病態:吸収不良型、分泌型、滲出性、機能性
性状:血性、非血性、脂肪性、水溶性
場所:大腸性、小腸性
などで分類する。
病歴:発症時期、発症形式、食事・薬などの経口摂取状況、旅行歴、既往歴、随伴症状
身体所見:貧血、腹痛の有無、手術痕、随伴症状
血液検査:白血球、CRPなど炎症反応、好酸球、電解質(Na/K/Cl)
便検査:便潜血、浸透圧、比重、便中脂肪、便中WBC、便培養
検査:腹部Xp、腹部CT、大腸内視鏡検査、消化吸収試験
▶ 急性のみならず慢性下痢症の場合でも感染性であるかどうかを鑑別し、感染性下痢症を確実に除外することが大切!
▶ 内服している薬剤がある場合は、薬剤性下痢の場合もあり、可能性を疑い中止できる薬剤は中止を検討する
▶ 原因がわからない場合には大腸内視鏡検査での精査も検討し、必要に応じて生検も行う
【文献】
1) 蔵原晃一, 他:消内視鏡. 2017;29(1):140.
2) 山田裕揮, 他:薬事. 2017;59(5):1006-15.