(東京都 F)
洞結節は,上大静脈と右房の接合部に存在する長さ約1~2cm,幅約0.5cmの半月状の構造体で,分界溝に沿って存在しています。SSSは,脈の最上流であるこの洞結節の機能低下による病態です。正常心拍数は60~100回/分ですが,SSSでは60回/分以下の徐脈となります。正常の脈拍数では抑制されていた期外収縮が,徐脈になると脈と脈の間隔が延長し出現しやすくなります(図1)。期外収縮は,その後に休止期を伴いますので,さらに脈間が延長し,さらなる期外収縮の発現を助長します。
心房においては不応期も重要です(不応期とは,1回興奮した心筋組織が次に興奮するまでの間,刺激を加えられても一過性に興奮できなくなる時期のことを言います)。洞結節から発出した刺激は心房を興奮させ,房室結節に向かいますが,心房筋の不応期は,洞結節に近いほど長く,離れるほど短くなります。すなわち刺激は,不応期の長い組織から短い組織に伝導していきますが,期外収縮が洞結節以外から出現すると,この方向性が崩れ,心房細動などのリエントリー性の頻脈性不整脈が生じやすくなります1)。
また,徐脈そのものが心房筋の不応期を不均一にすることも知られています2)。SSSの特徴は「心房筋の不応期の不均一性の増大と不均一な延長」とされています3)。この結果として生じるのが代表的な頻脈性不整脈の心房細動です。SSSにおいて心房細動を新たに発症するハザード比は4.2と報告され4),SSSと診断された40~70%に心房細動が認められると報告されています5)6)。
SSSに至った基礎心疾患も重要です。虚血など心房筋に線維化をきたす疾患では,心房内の伝導遅延など伝導障害を生じ,心房細動などリエントリー不整脈が生じやすい状態となっています。
心房細動は,心房筋が440回/分以上興奮する病態ですので,洞結節をoverdrive suppressionします。このoverdrive suppressionが長期にわたるとさらに洞機能を悪化させ,さらに心房細動が生じやすくなるという悪循環に陥ります。心房細動では,心房筋におけるカルシウム過負荷が生じ,洞機能の低下,心房筋の不応期の短縮が生じる(電気的リモデリング)以外に,心房細動の持続時間が長くなると心房の拡大が生じ,また心室レートが上昇することと相まって洞結節も含めた心房筋の虚血が生じ,線維化が生じます(解剖学的リモデリング)。心房細動ではこのような病態が生じ,洞機能がさらに低下していきます。洞不全と心房細動などの頻脈性不整脈は,“にわとりと卵”の関係に似ています。
このような理由でSSSでは,徐脈だけでなく心房性期外収縮や心房細動など頻脈性不整脈が生じやすくなるのです。
【文献】
1) Spach MS, et al:Circ Res. 1989;65(6):1594-611.
2) Han J:Am J Cardiol. 1971;28(3):253-62.
3) Luck JC, et al:Circulation. 1979;60(2):404-12.
4) Alonso A, et al:PLoS One. 2014;9(10):e109662. doi:10.1371/journal. pone. 0109662.
5) Lamas GA, et al:N Engl J Med. 2002;346(24): 1854-62.
6) Nielsen JC, et al:Eur Heart J. 2011;32(6):686-96.
【回答者】
酒井 毅 済生会横浜市東部病院不整脈科部長