(神奈川県 S)
【AMR対策のためにも漫然とした使用は避け,原因菌を考慮して選択すべき】
急性細菌性前立腺炎の原因菌としては大腸菌が65〜87%と最も多く,緑膿菌が3~13%,クラブシエラ属が2~6%,グラム陽性菌が3~5%,その他が9%程度と報告されています。尿中への移行,前立腺組織への移行度が高いという意味ではキノロン系抗菌薬が有利と考えられますが,β-ラクタム系薬でも炎症によって血管透過性が亢進した前立腺には十分に移行することが知られています。本ガイドライン1)2)では,大腸菌を中心にキノロン耐性率が上昇してきていることも考慮し,キノロン系薬ではなくセファロスポリン系薬が第一選択薬として推奨されています。
本ガイドラインの総論では,重症例には「第2・3世代セフェム系薬,βラクタマーゼ阻害薬(β- lactamase inhibitor:BLI)配合広域ペニシリン系薬,ニューキノロン系薬の注射薬を用いる」と記載されていますので,エンピリックに第3世代セファロスポリン系薬を使用してもよいと思います。欧米のガイドライン3)では,急性単純性腎盂腎炎や細菌性前立腺炎にCTRXなどの第3世代セファロスポリン系薬やキノロン系薬が第一選択として推奨されています。
わが国においてはCMZ,CTRXは適応症に膀胱炎,腎盂腎炎はありますが,前立腺炎はありません。FMOX,CTM,CAZはいずれも膀胱炎,腎盂腎炎に加えて前立腺炎(急性症,慢性症)も適応症となっていることが,本ガイドラインで第一選択として推奨されている理由の1つです。
さらに,FMOXは基質拡張型β-ラクタマーゼ(extended spectrum β-lactamase:ESBL)産生菌に,ある程度効果が期待できること,CTMは第3世代セファロスポリン系薬に比べてグラム陽性球菌への効果が期待できることが特徴です。CAZは第3世代セファロスポリン系薬の1つとして推奨されていますが,ご指摘のように緑膿菌の感染が疑われる症例には積極的に使用すべきと考えられます。
タゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)やカルバペネム系抗菌薬も,経験的にESBL産生菌やキノロン耐性菌による急性細菌性前立腺炎に著効することが知られています。これらの抗菌薬は急性細菌性前立腺炎には適応外であり,また現在全世界で警鐘が鳴らされている薬剤耐性(antimicrobial resistance:AMR)対策のためにも,有効だからといって漫然と使用せず,考慮して使用すべきと考えられます。
【文献】
1) 山本新吾, 他:日化療会誌. 2016;64(1):1-30.
2) 山本新吾, 他:感染症誌. 2016;90(1):1-30.
3) European Association of Urology(EAU) guidelines: Urological Infections.
[http://uroweb.org/guideline/urological-infections/#3_7]
【回答者】
山本新吾 兵庫医科大学泌尿器科主任教授