治療方針の決定には,十分な情報提供を行い,患者の意思を尊重する
周産期の薬物療法は,リスク・ベネフィットのバランスで決定する
傾聴と共感は精神療法の基本である
症状の重症度に応じて心理療法や薬物療法を検討する
周産期における薬物療法の選択の際は,リスク・ベネフィットを十分に評価する必要がある。周産期の母親にとってベネフィットとなる薬物療法が,胎児もしくは出生児にとっては薬物への曝露というリスクとなる場合がある。しかし,その一方,母体環境を安定させることが児のベネフィットになる場合もあるため,その評価は容易なことではない。
患者は向精神薬が安全かどうかという端的な答えを求めがちだが,それに応えるだけの十分なエビデンスはないのが現状である。その不確実性の中で治療を選択していくには,医療者と患者が,選択可能な治療の決定過程を共有する必要がある。疾患名,病歴,入院の有無,重症度といった情報だけでなく,病識の有無や診断への認識,薬物療法や精神療法に対してどのような価値観を有しているか,さらには,周産期の精神状態に影響を与える可能性のある心理社会的な因子を有するかどうかという点も総合的に評価した上で,医療者と患者が協力して意思決定を行うことが望ましい。また,経過の中で治療方針の変更の可能性も共有する必要がある。
鈴木1)は「向精神薬と妊娠・授乳:10の原則の中」で,“薬物療法の原則とは,「どのようにすれば薬物療法をせずに,周産期の精神状態の安定を図ることができるか」を考えることから始まる”と述べている。疾患によりケースバイケースではあるが,どのような条件が整えば,薬物を選択せずにすむか,もしくは最小限の薬物ですむかという視点は,短期的にも長期的にも母親と家族のQOLを左右すると考えられる重要な示唆である。
妊娠中や授乳中という理由で,本来であれば必要な薬物療法を患者が希望しない場合や医療者が提供しない場合もある。周産期の薬物療法においては,患者の状態を適切に評価し,その時点で明らかにされているエビデンスと照らし合わせ,治療の決定過程を共有し,患者が自己決定により治療を選択していける支援をすることが重要である。
なお,周産期の薬物療法についての詳細は,NICEガイドライン2),「周産期メンタルヘルス コンセンサスガイド2017」3)や成書を参考にして頂きたい。