【全身化学療法による遠隔転移の制御を目的とした術前治療の試み】
局所進行直腸癌に対する術前治療では,わが国と欧米の間で治療方針に相違がみられる。欧米では側方リンパ節は遠隔リンパ節転移であるとの考え方から,側方郭清を省略する代わりに術前に側方リンパ節領域を含めて放射線化学療法(CRT)を行い,原発巣の根治切除率の向上と局所再発率の低下を目的とした治療を行うのが一般的である。一方,わが国では側方リンパ節は所属リンパ節との考え方から術前治療を行わず,側方郭清を行ってきた1)。
欧米におけるCRTの良好な成績により,わが国においてもCRTによる原発巣の根治切除率,局所再発率における良好な結果が報告されてきている。しかし,問題点として,遠隔転移を制御する効果は認められなかったことが挙げられる。したがって,最近では,再発大腸癌に対する全身化学療法の進歩に伴い,同様のレジメを局所進行直腸癌の術前全身化学療法(NAC)に応用することで良好な長期成績を収めようとする試みもされはじめている。NACでは主にFOLFOXやCapeOXなどが用いられ,忍容性は高いと考えられている。また,CRTとの大きな違いは,放射線照射による骨盤内臓器の放射線障害回避,肛門括約筋の機能温存,全直腸間膜切離(TME)における剝離層の線維性肥厚を回避できることが長所である,と考えられている。今後は,NACにおける短期および長期成績におけるエビデンスの構築が待たれる。
【文献】
1) 大腸癌研究会, 編:大腸癌治療ガイドライン 医師用2016年版. 金原出版, 2016.
【解説】
杉本起一,坂本一博* 順天堂大学下部消化管外科 *教授