臨床検査は心電図,超音波,CTや核医学検査などの画像診断と異なり,専門的な知識や技術がなくても,採血だけで誰もが病態を客観的(数字)に評価できる。そのため,うまく活用すれば得意でない分野への診療参加を容易にし,診療の裾野を広げることができる。
心筋トロポニン(IおよびT),CK-MB(creatine kinase MB)や心筋型脂肪酸結合蛋白(heart-type fatty acid-binding protein:H-FABP)などの心筋マーカーは心筋傷害(壊死)という病態の評価,B型ナトリウム利尿ペプチド(B-type natriuretic peptide:BNP),N末端プロBNP(N-terminal proBNP:NT-proBNP)やA型ナトリウム利尿ペプチド(A-type natriuretic peptide:ANP)などの心不全マーカーは心負荷の評価に用いられる。
本稿ではトロポニン,BNPとNT-proBNPを中心に,循環器領域における臨床検査の選び方・使い方のポイントについて述べる。
急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)は,心電図で有意なST上昇を認めるST上昇型(ST上昇型心筋梗塞)と有意なST上昇を認めない非ST上昇型(不安定狭心症/非ST上昇型心筋梗塞)に大別される。心筋マーカー測定の意義は,心電図診断が可能なST上昇型の診療では高くない。一方,心電図診断が困難なACS疑い患者の診療には心筋マーカー,特にトロポニン測定は不可欠である。
トロポニンは心筋特異性が高く,異常値を示す期間が長いため,CKやCK-MBにより検出できなかった不安定狭心症の微小心筋傷害を診断できる。トロポニンが上昇している不安定狭心症が心臓死や急性心筋梗塞(acute myocardial infarction:AMI)発症の高リスクであることは,多数の大規模臨床試験によって確立された1)。そのため欧州心臓病学会(ESC)/米国心臓病学会(ACC)は2000年にAMIの診断基準を全面改訂し2),心筋マーカーの第一選択はトロポニンに刷新された。さらに,わが国では十分に浸透していないが,トロポニンが上昇している不安定狭心症はすべてAMIと診断されることになった。
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