(高知県 F)
【種々の誤差要因を内包した参考値と考える】
ご指摘の「VSDでベルヌーイ式より求めた圧較差が45mmHg」は短絡血流の最大流速を記録した時相での左室圧と右室圧の差圧を表しています。したがって,ご指摘の収縮期血圧(=左室収縮期圧)を100mmHg,圧較差を45mmHgとした式①の左辺は,
左室収縮期圧−(左室収縮期圧−右室収縮期圧)
となり,これより求められた55mmHgはそれ自体で右室収縮期圧を示すものとなります。
ただし,超音波装置で用いられているベルヌーイ式はエネルギー保存則から簡素化された簡易ベルヌーイ式を用いています1)。これは,
ΔP=4×V2(ΔP:圧較差,V:最大流速)
と表されるもので,ここでVは短絡血流の最大流速であり,ご指摘の圧較差45mmHgがΔPに当たり,短絡血流の最大流速が計測された時相での左室圧と右室圧の差圧を表す数値となります。
ここで注意を要するのは,計算式を簡素化したことによりいくつかの仮定のもとに簡易ベルヌーイ式が成立することです。その1つとして,最大流速Vが計測された部位(ここでは欠損孔)に近接した部位(ここでは欠損孔に近接した左室側)の血流速度がVに対して無視できるほど小さいと仮定した場合に簡易ベルヌーイ式が成立します。たとえば,大きな欠損孔の場合は,欠損孔に近接した左室側の血流速度はVに対して無視できなくなり,簡易ベルヌーイ式から(超音波装置で)算出されたΔPは過大評価され,これをもとに①で算出された右室圧は過小評価されます2)。
また,この両心室間の圧較差はカテーテルによって求められる圧較差とは微妙に異なります。カテーテルにおいて通常求められる圧較差は左室圧と右室圧の差圧ではありますが,各々の心室の最大圧は,左室圧では収縮期前半に,右室圧では後半に位置することが多く,時相の異なる各々の最大圧の差圧を表しています。しかし,ドプラ法で計測される圧較差(今回では45mmHg)は同じ時相での両心室間の圧差を表しています3)。また,ドプラ法では短絡血流の中心流の方向と欠損孔を通過するドプラビームの方向が異なる場合,角度補正が必要となりますが,この場合にも多少の誤差を生じます。したがって,ご指摘の①で算出された55mmHgは右室圧を示すものではありますが,種々の誤差要因を内包した参考値ととらえればよいかと考えます。
なお,ご質問中の「右房圧……」は三尖弁逆流などに関連するので,成書に譲ることとします。
【文献】
1) 仲宗根 出:心エコー. 2007;8(1):24-33.
2) Tomita H, et al:J Cardiogr. 1986;16(1):181-91.
3) Tomimatsu H:Ped Cardiol Card Surg. 2010;26 (2):132-9.
【回答者】
仲宗根 出 医親会 OBPクリニック臨床検査科