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女性の急性尿閉の発生機序は?

No.4943 (2019年01月19日発行) P.60

藤原敦子 (京都府立医科大学泌尿器科学教室講師)

登録日: 2019-01-18

最終更新日: 2019-01-15

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従来,尿閉で来院する患者のほとんどが男性で,前立腺肥大症によるものでしたが,最近,非常に元気な女性の急性尿閉を2例経験しました。
1例目:30歳代,女性,カナダ人。日本人の夫の故郷に飛行機で来た翌日,腹部苦痛,排尿困難で来院。導尿で600~700mL排尿して,帰宅しました。
2例目:72歳,女性。普段は非常に元気。2018年1月1日頃から下腹部痛,排尿困難,頻尿があり,1月6日,雪かき作業をして悪化し来院。膀胱炎の疑いでノルフロキサシン(バクシダール®)を処方。1月9日の腹部エコーで排尿後の膀胱容量は956mL,導尿で850mLの尿が出ました。便秘もあり,グリセリン浣腸を行いました。1月19日の検査では,白血球6700/μL,CRP 0.03mg/dL,BUN 11.2mg/dL,Cr 0.56mg/dL,尿中赤血球1~4個/HPF,尿中白血球多数,尿糖(-),尿蛋白(-),血糖119mg/dL,HbA1c 6.4%。尿中細菌培養を行ったところコアグラーゼ陰性ブドウ球菌 106 CFH/mLが検出されました。導尿により480mL尿排出。
現在,抗菌薬,ジスチグミン(ウブレチド®),ウラジピル(エブランチル®)を投与して経過を観察中。
(1)1例目は長時間飛行機に乗ったことや,2例目では雪かき作業を無理に行ったストレスが神経因性膀胱の原因になったと考えられるのでしょうか。
(2)2例目は尿路感染症に神経因性膀胱が併発したと考えられますが,最初に膀胱炎があって,そのために神経因性膀胱(尿閉)になったとは考えられないでしょうか。
(3)治療に関して,1例目は導尿だけで症状は改善しています。2例目は導尿または抗菌薬投与でもすぐ改善したという経過ではなく,すっきりしないとのこと。以上の原因解釈,適切な治療の方向についてご教示下さい。

(秋田県 F)


【回答】

【若年では心因性,中高年では要因不明の排尿筋低活動がしばしばみられる】

ご指摘の通り,女性では男性の前立腺のように直接下部尿路閉塞を起こしうる解剖学的な臓器がないため,排尿障害は少ないと思われがちですが,実際の臨床では排尿障害を訴える女性は稀ではありません。

(1)尿閉の原因

尿閉の原因に関してですが,一過性の尿閉で,あとは症状がなくなってしまったのであれば器質的疾患は考えにくく,おっしゃる通り,ストレスによる影響は考えられると思います。30歳以下の若年女性に突然に起こる心因性尿閉,尿排出障害をFowler症候群と言います。明らかな神経疾患や原因がなく,外尿道括約筋の過緊張により排尿障害をきたすと考えられています。

(2)神経因性膀胱と膀胱炎

膀胱炎が神経因性膀胱の原因となることは考えにくいと思います。ご指摘の通り,尿排出障害があり,そこに感染を合併した可能性が高いと考えます。可能性としては,もともと自覚症状は乏しかったようですが,慢性的に残尿があった可能性を考えます。中高年女性では,明らかな神経疾患やその他の要因がないにもかかわらず排尿筋低活動を認めることがあり,加齢による膀胱壁の平滑筋量の減少などの可能性が言われています。また,女性の排尿障害(排出障害)の原因として,骨盤臓器脱がありますので,脱の症状(下垂感や股に物が挾まる感じなど)がないかを問診でご確認頂くのもよいと思います。

(3)治療法の選択

脱の症状があり,診察で骨盤臓器脱があれば,その治療による排尿障害の改善が期待できます。もしそのような器質的疾患がなく,今後も残尿が減少しなければ,尿流動態検査施行による病態の解明(排尿筋低活動なのか,排尿筋括約筋協調不全なのか判断)の上,治療としては間欠的自己導尿指導を選択せざるをえないかと思います。

【回答者】

藤原敦子 京都府立医科大学泌尿器科学教室講師

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