(東京都 F)
【生体内における酸化ストレス状態を正確に測定できる】
8-OHdG(8-hydroxy-2’-deoxyguanosine)はDNAを構成する塩基の1つであるデオキシグアノシンの8位の炭素が酸化されて生成されます1)。デオキシグアノシンはデオキシリボ核酸の4種類のDNA塩基のうち最も活性酸素種による酸化を受けやすいため,デオキシグアノシンの酸化生成物である8-OHdGは活性酸素種による生体への影響を鋭敏に反映すると考えられています2)。生成された8-OHdGはDNA修復酵素の作用でDNAから切り出され細胞外に排出され,さらに血液を経て尿中に排泄されます。
8-OHdGは,現在最も広く用いられている酸化ストレスマーカーの1つであり,尿中8-OHdGは非侵襲的に生体内の酸化ストレスを評価するために広く用いられています。加齢により,尿中8- OHdG排泄量が増加するとの報告がいくつかありますが3)4),これは,加齢により生体内の酸化ストレスが上昇した状態を反映したものと考えられます。生体内の酸化ストレス状態は,運動,食事,喫煙,睡眠などの生活習慣によって変動するので5),尿中8-OHdG排泄量も生体の酸化ストレス状態を反映して変動します。したがって,尿中8-OHdGを測定することで,測定時の生体内における酸化ストレス状態を定量的に判断することができます。
8-OHdGを含む尿中の成分は,同一人物でも日内変動があり,濃度も一定ではありません。このため,正確な排泄量を測定するには,24時間蓄尿を行う必要があります。しかし,日常生活の中で,24時間の蓄尿はいつでもできるわけではありません。この代わりに,随時で採取された尿からその個人の24時間の排泄量を推定するために,クレアチニン補正が行われます。
クレアチニンは筋肉運動のエネルギー源となる有機酸のクレアチンが代謝されてできた老廃物で,通常は尿から排泄されます。成人のクレアチニンの産生量は一定で,尿中には1日に約1gが排泄されます。したがって,尿クレアチニン1g当たりの濃度を求めれば,1日の排泄量を推定することができます。すなわち,尿中のクレアチニンとの比を測定することで,尿中成分の24時間排泄量を推定することになります。随時尿でクレアチニン補正をする方法は,蛋白定量,アルブミン定量など多くの項目で蓄尿の代わりに用いられています。
【文献】
1) Kasai H, et al:Carcinogenesis. 1986;7(11):1849-51.
2) Loft S, et al:J Toxicol Environ Health. 1993;40 (2-3):391-404.
3) Miwa M, et al:Biofactors. 2004;22(1-4):249-53.
4) Ichiba M, et al:Hepatogastroenterology. 2007;54(78):1736-40.
5) Kasai H, et al:Jpn J Cancer Res. 2001;92(1):9-15.
【回答者】
佐藤 稔 川崎医科大学腎臓・高血圧内科学准教授