(東京都 M)
【メリットのみならず除菌療法のデメリットやがん予防効果に限界があることも理解してもらう】
すべての医療行為において,医師は,医療行為の目的,方法と成功率,また,メリットのみならずデメリットや限界について患者にていねいに説明し,最終的には患者の意思決定で実施する必要があります。当然,Hp除菌薬処方時も同じです。除菌治療について正しく理解してもらうことでアドヒアランスがよくなり,除菌成功率の上昇に繋がると思われます。
メリットとして説明していることは,Hp除菌により胃粘膜の炎症が改善し,長期的には萎縮が少し改善することです。それを土台として,消化性潰瘍を繰り返している患者では再発が非常に少なくなり,胃MALT(mucosa associated lymphoid tissue)リンパ腫の多くが改善し,胃過形成性ポリープが縮小・消失すること,また,胃癌発生リスクをある程度低下させることを説明しています。
しかしながら,Hp除菌で胃癌発生リスクが未感染者と同レベルになるわけではありません。早期胃癌内視鏡治療後患者を対象とした場合には約1/3に低下しますが1),Hp胃炎だけを対象としたメタアナリシス2)では,有意差はあるものの約2/3に低下するのみですので,除菌治療にも限界があることを説明しなければなりません。そして,除菌成功後の定期的な内視鏡検査を中心とした画像検査によるサーベイランスの重要性を説明する必要があります。胃癌発生リスクを少しでも低下させるために除菌治療は積極的に勧奨すべきですが,「除菌治療は胃癌予防の特効薬ではない」ことを理解してもらうように努めなければなりません。
また,除菌後には酸分泌の回復に伴い,逆流性食道炎が発症することがあり,1~2%と頻度は低いものの,胸やけなどの症状のため酸分泌抑制薬が必要になる症例があることも説明しておくべきです。
当然,除菌治療には抗菌薬2剤と酸分泌抑制薬1剤を1日2回1週間内服してもらうことや,除菌薬そのものの有害事象(副作用)についても説明する必要があります。私はアモキシシリンによるアレルギー(皮疹)が1~2%程度,アモキシシリンによる軟便・下痢便が十数%,クラリスロマイシンによる口腔内違和感・味覚異常が6~7%であることを説明しています。軟便・下痢については多くは軽度のものです。しかし,5000~1万例に1例と頻度は低いものの,抗菌薬による出血性腸炎のリスクがあることの説明も忘れてはなりません。
最後になりますが,除菌薬処方時に私が患者に強調してお願いしているのは,①除菌判定を必ず受けること(処方時に尿素呼気試験を予約しています),②除菌成功後も定期的に画像検査,できれば毎年,内視鏡検査を受けることです。
【文献】
1) Fukase K, et al:Lancet. 2008;372(9636):392-7.
2) Ford AC, et al:BMJ. 2014;348:g3174.
【回答者】
井上和彦 淳風会健康管理センターセンター長