株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

ピロリ菌(Hp)除菌療法施行時の説明事項は?

No.4948 (2019年02月23日発行) P.59

井上和彦 (淳風会健康管理センターセンター長)

登録日: 2019-02-24

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ピロリ菌(Helicobacter pylori:Hp)除菌のための薬剤処方時に患者に説明しておくべき事項について,ご教示下さい。

(東京都 M)


【回答】

【メリットのみならず除菌療法のデメリットやがん予防効果に限界があることも理解してもらう】

すべての医療行為において,医師は,医療行為の目的,方法と成功率,また,メリットのみならずデメリットや限界について患者にていねいに説明し,最終的には患者の意思決定で実施する必要があります。当然,Hp除菌薬処方時も同じです。除菌治療について正しく理解してもらうことでアドヒアランスがよくなり,除菌成功率の上昇に繋がると思われます。

メリットとして説明していることは,Hp除菌により胃粘膜の炎症が改善し,長期的には萎縮が少し改善することです。それを土台として,消化性潰瘍を繰り返している患者では再発が非常に少なくなり,胃MALT(mucosa associated lymphoid tissue)リンパ腫の多くが改善し,胃過形成性ポリープが縮小・消失すること,また,胃癌発生リスクをある程度低下させることを説明しています。

しかしながら,Hp除菌で胃癌発生リスクが未感染者と同レベルになるわけではありません。早期胃癌内視鏡治療後患者を対象とした場合には約1/3に低下しますが1),Hp胃炎だけを対象としたメタアナリシス2)では,有意差はあるものの約2/3に低下するのみですので,除菌治療にも限界があることを説明しなければなりません。そして,除菌成功後の定期的な内視鏡検査を中心とした画像検査によるサーベイランスの重要性を説明する必要があります。胃癌発生リスクを少しでも低下させるために除菌治療は積極的に勧奨すべきですが,「除菌治療は胃癌予防の特効薬ではない」ことを理解してもらうように努めなければなりません。

また,除菌後には酸分泌の回復に伴い,逆流性食道炎が発症することがあり,1~2%と頻度は低いものの,胸やけなどの症状のため酸分泌抑制薬が必要になる症例があることも説明しておくべきです。

当然,除菌治療には抗菌薬2剤と酸分泌抑制薬1剤を1日2回1週間内服してもらうことや,除菌薬そのものの有害事象(副作用)についても説明する必要があります。私はアモキシシリンによるアレルギー(皮疹)が1~2%程度,アモキシシリンによる軟便・下痢便が十数%,クラリスロマイシンによる口腔内違和感・味覚異常が6~7%であることを説明しています。軟便・下痢については多くは軽度のものです。しかし,5000~1万例に1例と頻度は低いものの,抗菌薬による出血性腸炎のリスクがあることの説明も忘れてはなりません。

最後になりますが,除菌薬処方時に私が患者に強調してお願いしているのは,①除菌判定を必ず受けること(処方時に尿素呼気試験を予約しています),②除菌成功後も定期的に画像検査,できれば毎年,内視鏡検査を受けることです。

【文献】

1) Fukase K, et al:Lancet. 2008;372(9636):392-7.

2) Ford AC, et al:BMJ. 2014;348:g3174.

【回答者】

井上和彦 淳風会健康管理センターセンター長

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

公立小浜温泉病院

勤務形態: 常勤
募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
勤務地: 長崎県雲仙市

公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top