輸血関連急性肺障害(TRALI)は,呼吸困難をきたす輸血有害事象の中では重篤度が高いものであり,近年まで輸血関連死のトップであった
TRALIの発症機序が徐々に解明されることにより,予防策が講じられ発症数は減少傾向にある
TRALIの治療は特異的なものはなく,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療に準じた呼吸管理や薬物治療を行う
輸血関連循環過負荷(TACO)はTRALIと似た症状を呈するため,近年,輸血の有害事象として報告数が増えてきている
TACOは輸血・輸液による心原性肺水腫であり,そのリスクを避けるためには輸血前の患者の循環血液量,心機能,腎機能,呼吸機能などの評価をしっかりと行うことが重要である
輸血関連急性肺障害(transfusion-related acute lung injury:TRALI)は,急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)に含まれる。1950年代より,輸血後に生じる肺水腫や過敏症もしくは白血球凝集素が関係する病態として報告例が散見されるが,1985年にPopovskyがTRALIという呼称を提唱した1)。その後徐々に報告例が増えてきたが病態の定義を統一させるため,2004年にTorontoで開かれたConsensus ConferenceにおいてTRALIの診断基準が示された2)3)。
詳細は表1に示すが,輸血中もしくは輸血後6時間以内に新たに発症する急性の呼吸不全であり,循環負荷による心不全ではなく,胸部X線上,両側肺野の浸潤影を呈する病態である。ARDS/ALIの診断基準に準じて,低酸素血症はP/F比が300以下もしくは室内気でSpO2が90%未満となっている。輸血以外に急性肺障害(acute lung injury:ALI)の危険因子がないものをTRALI,輸血以外にも表2に挙げるような危険因子を持つものはpossible TRALIとしている。
TRALIは,呼吸困難をきたす輸血有害事象の中では重篤度が高く,近年まで輸血関連死のトップであった。