日本内科学会など14学会が参画する「脳血管病協議会」がこのほど、実地医家向けの「脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート2019年版」を公表した。脳心血管病の予防を目的とし、関連学会のガイドライン等を総合的に活用するための診療ツールとして、日本医学会連合と日本医師会の合意の下に作成された。従来の15年版からの改訂に当たり、高齢者特有の留意点が追記されたほか、関連学会の診療指針の改正内容も反映された。
チャートは健康診断などで偶発的に脳心血管病リスクを指摘されて来院した患者を主な対象としているが、既に加療中の患者の管理状態を評価するツールとしても利用できる。①スクリーニング、②各リスク因子の診断と追加的評価項目、③治療開始前に確認すべきリスク因子、④リスク因子と個々の病態に応じた管理目標の設定、⑤生活習慣の改善、⑥薬物療法―の6つのステップで、確認すべき所見や専門医紹介の必要性などを簡潔に示している。
④の管理目標値などは関連学会が4年間に改訂したガイドラインに準拠している。降圧目標では、今年4月に発刊された『高血圧治療ガイドライン2019』の基準(75歳未満:130/80mmHg未満、75歳以上:140/90mmHg未満)が掲載されている。
生活習慣病の改善では、最優先の「禁煙」の次に取り組むべき項目が「食事管理」から患者自身でも取り組みやすい「体重管理」へ変更された。「身体活動・運動」では、「有酸素運動の他にレジスタンス運動や柔軟運動も実施することが望ましい」「運動習慣がない者には、徐々に軽い運動や短時間の運動から実施するように指導する」などの記述が追加された。
新設された「高齢者における留意点」では、単に脳心血管病を予防するだけでなく、心身の機能や生活機能を低下させない管理を目指すことを強調。具体的には、▶食事準備の状況▶フレイル▶栄養状態▶認知機能▶日常生活動作(基本的ADL、手段的ADL)▶服薬状況―を把握するとした。
65歳以上の糖尿病のコントロール目標(HbA1c値)に関しては『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』に沿って、ADLと認知機能の評価などに基づいてカテゴリー分類を行った上で、年齢、重症低血糖の恐れがある薬剤の使用の有無によって目標値または目標下限値を設定するとしている。
5月26日にチャートの普及セミナーが都内で開かれ、協議会会長を務める寺本民生氏(帝京大臨床研究センター長)らが改訂の要点について講演した。
寺本氏は、昨年12月に成立した脳卒中・循環器病対策基本法により、循環器疾患のリスク因子の包括的管理が、健康寿命延伸と医療費抑制の観点からも「重要性を増している」と強調。チャートを診療に用いる時機や頻度については「年に1回程度、患者と一緒にチャートを見ながら、リスク因子をチェックしてほしい」とした上で、「私は患者の誕生月に一通りの点検を行うことにしている」と自身の活用法を紹介した。
高齢者における留意点について講演した杏林大高齢医学教授の神﨑恒一氏は、「初診の患者だけでなく、ずっと診てきた患者でも、いつの間にか生活が乱れて要介護リスクが高まっていることがある」と述べ、脳心血管病のリスク因子に加えて、フレイルの状態や社会生活の状況も把握する重要性を強調。ただし、全てを限られた診察時間でチェックするのは困難であるため、診察待ちの間にコメディカルが問診票や「簡易フレイルインデックス」を使って聴き取るなどの工夫が求められるとした。
管理目標値の設定や生活習慣の改善については、一見肥満でもサルコペニア肥満の可能性を考慮するなど、BMI値が体脂肪量を反映しない点や四肢の筋量の減少に着目するよう呼び掛けた。
チャートと詳細な解説は「日本内科学会雑誌」108巻5号と内科学会のウェブサイト(https://www.naika.or.jp/info/crmcfccvd2019/)に掲載されている。