(兵庫県 K)
【報告者により発生頻度は様々であるし,PPI投与・非投与群間の差も見られない】
クッシング潰瘍とは,中枢神経系疾患や頭部外傷あるいは頭部手術後に生じる胃・十二指腸潰瘍を指し,現在ではストレス潰瘍の一種と考えられています。クッシング潰瘍は米国の脳外科医であるH. クッシングによって1932年に初めて報告され,その発生頻度は7.8~76.1%1)~4)と報告者により様々です。
救急や集中治療,脳神経外科の臨床現場では,クッシング潰瘍に限らずストレス潰瘍発生のハイリスクと考えられる患者に対して,PPIの投与を実施することが多いのですが,PPI投与による臨床上の損益(効果と副作用)についてはこれまで明らかにされていませんでした。
ところが,2018年12月のThe New England Journal of Medicine誌に5),欧州で実施されたICU患者を対象としたPPIの大規模な多施設プラセボ対照並行群間盲検ランダム化試験の結果が公表されました。
本試験ではICUに緊急入院し,上部消化管出血の危険があると評価された3282例を対象に,PPI投与群とプラセボ群の90日生存および臨床的重大イベント(臨床的に重要な消化管出血,肺炎,クロストリジウム・ディフィシル感染,または心筋虚血)の発生率が比較されました。その結果,両群間に差がないことが示されました5)。この結果から,クッシング潰瘍に対するPPIの投与は今後の臨床実務に影響を与える可能性があると考えられます。
【文献】
1) Hsu HL, et al:Eur Neurol. 2009;62(4):212-8.
2) Karch SB:J Neurosurg. 1972;37(1):27-9.
3) 山口和彦, 他:脳と神経. 1973;25(12):1567-81.
4) 小野正浩:日医大誌. 1982;49(3):340-52.
5) Krag M, et al:N Engl J Med. 2018;379(23): 2199-208.
【回答者】
石倉宏恭 福岡大学医学部救命救急医学講座教授