無気肺(atelectasis)とは一般に,肺区域あるいは肺葉以上のレベルで容量減少をきたした状態を言う1)。肺胞領域での含気の吸収の結果,胸部X線での透過性低下,気管支血管束の収束・偏位などの所見を伴う。中枢気道を閉塞する腫瘍でも,無気肺のみの画像所見を呈することもあるので,注意を要する。
発生機序によって以下のように分類されるが,これらの成因が複合して無気肺が形成される場合もある。
①閉塞性無気肺(obstructive atelectasis):吸収性無気肺とも言われる。胸部X線で肺区域,あるいは肺葉レベルの虚脱を呈するのは区域・葉気管支の閉塞(気管支腔内性あるいは壁外性)に起因することが多い。一般にair bronchogramを伴わないが,多数の末梢気道の閉塞による場合は中枢気道のair bronchogramを呈することがある。肺腫瘍,気管支結核,気道分泌物・粘液塞栓〔気管支喘息,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergic bronchopulmonary aspergillosis:ABPA),手術後など〕,気道異物,気管支結石などが原因となる。
②非閉塞性無気肺(nonobstructive atelectasis):容量減少と胸部X線での透過性低下,air bronchogramを伴うことが多い。
a)瘢痕性無気肺(cicatrizing atelectasis):様々な程度の線維化を伴う慢性炎症に起因する。気管支拡張症,肺結核,真菌症,器質化肺炎,放射線肺臓炎などに続発する。
b)癒着性無気肺(adhesive atelectasis):サーファクタントの欠乏・減少により,肺の拡張力低下をきたし容量減少をきたす。手術後,肺血栓塞栓症,急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS),放射線肺臓炎などでみられる。
③圧排性無気肺(compressive atelectasis):隣接する拡大性の腫瘤や囊胞性病変によって末梢含気腔が圧排されて肺容量が減少する。
④受動的無気肺(passive atelectasis):肺外病変による圧排に起因する。胸水,気胸,胸膜腫瘍,縦隔腫瘍,横隔神経麻痺などが原因となる。
無気肺の範囲や程度によって様々な所見を呈しうるが,一側全肺の無気肺では呼吸困難,低酸素血症を呈することが多く,聴診では肺胞呼吸音減弱・気管支呼吸音化を認める。
無気肺の胸部X線所見としては,直接所見(葉間胸膜の変位,透過性の低下),間接所見(縦隔の偏位,肺門の偏位,横隔膜挙上,病変部以外の区域・肺葉の代償性過膨脹),などがあるが,一葉以上の含気がほぼ完全に消失した場合,間接所見のみがみられることがある。中枢気道透亮像の不明瞭化にも注意を要する。
以下に,胸部単純X線における特徴的な無気肺像について述べる。
①一側全肺無気肺
左右主気管支の閉塞により,一側全肺の無気肺を生じる。患側横隔膜挙上,縦隔・心臓の患側への偏位,健側肺の過膨脹を認める。
②肺葉無気肺
a)右上葉無気肺:正面像では右傍気管部に底辺を有する均等陰影となり,minor fissure挙上,右肺門陰影挙上,気管の右方偏位などの所見を伴う。高度無気肺では上縦隔の右方へのわずかな拡大のみの所見となる。
b)中葉無気肺:正面像では右第2弓に底辺を置く淡い三角形の陰影を呈するが,高度無気肺では右第2弓の辺縁不明瞭化のみの所見となる。
c)右下葉無気肺:正面像では右横隔膜に底辺を有する淡い陰影を呈し,右横隔膜挙上,右肺門陰影下方偏位,右第2弓とのシルエットサイン陰性を示す。
d)左上葉無気肺:舌区を含むため,正面像では上肺野から下肺野に及ぶ境界不鮮明な陰影を呈し,心陰影とはシルエットサイン陽性となる。
e)左下葉無気肺:右下葉無気肺に類似した陰影となるが,下行大動脈とのシルエットサイン陽性が重要である。心陰影に隠れる場合も多い。
③特殊な無気肺
a)中葉(舌区)症候群:中葉支は解剖学的に閉塞しやすく,無気肺を起こしやすい。中葉(舌区)の無気肺を原因にかかわらず中葉(舌区)症候群と呼ぶが,慢性炎症によることも多い。
b)板状無気肺:比較的末梢の気管支が閉塞した場合などに小さな領域の無気肺が線状・索状の陰影としてみられることがあり,板状無気肺と呼ばれる。
c)円形無気肺:胸膜病変によって肺実質の進展が不良となり類円形・腫瘤状の陰影を呈することがある。胸水貯留の消退時などにみられ,石綿曝露歴を有する症例もあるので,詳細な問診が必要である2)。
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