現在,進行非小細胞肺癌の治療は,まず有効な薬剤のあるドライバー遺伝子による疾患の層別化によって始まる。ドライバー遺伝子はがん細胞の生存・増殖を制御し,そのシグナルに依存するがん細胞は対応するリン酸化酵素を阻害するだけで細胞死に至り,劇的な臨床効果がもたらされる。分子生物学の進歩による肺癌の診断・治療法の進歩は目覚ましく,最新のガイドライン1)の内容は最低限把握しておかねばならない。
診断の手順は各施設の事情もあり,様々な手順があると考えられるが,筆者らの施設では気管支鏡を実施し,細胞診検体による迅速診断で非小細胞癌が確定されれば,EGFR遺伝子変異,ROS1融合遺伝子,続いて組織検体でALK免疫染色(十分な腫瘍細胞数が確認されるとPD-L1免疫染色)が行われ,すべてが陰性であればBRAF遺伝子変異が検討されている。将来的には次世代シークエンサーによる遺伝子パネルを利用し,増幅遺伝子を含めたドライバー遺伝子を一括診断する時代が訪れると考える。
治療の基本は「特定のドライバー遺伝子を有する患者を選別し,それに対応する効果的な治療薬を使用すること」である。残念ながら,現在汎用されているチロシンリン酸化酵素阻害薬(tyrosine kinase inhibitor:TKI)単独治療による治癒は例外的である。しかし,適切な化学療法への変更,TKIの再投与を繰り返しながら,より長期の生存,高い生活の質を保つことは可能である。
プラチナ製剤を含む通常の化学療法と比較して,TKIの毒性は軽微で連日経口投与可能であり,薬剤切り替えのタイミングは難しい。切り替えの時期を失すると長期生存が望めないこともある。画像上のprogression(最大効果からの悪化,持続的な腫瘍マーカーの悪化も参考にすることがある)あるいはprogressive disease(PD,腫瘍長径20%以上の増悪あるいは新病変出現)まで待つか,適切な治療変更時期の結論は出ていない。新病変もいわゆるoligorecurrence,たとえば,単発脳転移の再発であれば,定位放射線治療で完全に制御可能なことも多く,治療後beyond PDでTKI治療を継続するか化学療法に変更するかは意見がわかれる。筆者は完全奏効でなければさらなる腫瘍縮小をめざし,後者を選択することが多い。初期治療で可能な限り腫瘍量を減らしておくことが,後の治療を容易にするし長期生存を得る上で大切と考えている。
EGFR遺伝子変異陽性肺癌,ALK融合遺伝子陽性肺癌に対する免疫チェックポイント阻害薬単独での効果は否定的であるが,血管内皮増殖因子阻害薬と化学療法との併用で期待できる結果が報告されている2)。
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