【生命予後の延長効果とQOLや全身状態の障害のバランスが重要】
胃癌患者の過半数は75歳以上で,80歳以上が3割を占める。高齢者胃癌に対する外科治療の難しさは,生命予後の延長効果と合併症併発や胃切除後によるQOLや全身状態(PS)の障害のバランスが,非高齢者と異なる点である。
過大な手術侵襲は手術関連死や合併症の併発につながり,長期入院を余儀なくし,廃用症候群によるADLやQOLの低下をまねき,社会復帰を困難にし,生命予後を不良とする1)。手術の適応と治療法の選択の判断には,PSの把握や予後予測が重要であり,暦年齢,PS,併存疾患に加えて,免疫栄養状態,認知機能,精神心理状態など,多角的にPS(脆弱性)を評価する必要がある。
腹腔鏡手術は高齢者でも安全に施行可能とする報告も多く,懸念される気腹の循環呼吸動態への重大な影響は認めないため,その低侵襲性が期待される2)。高齢者の胃癌では,生命予後を規定する因子が胃癌なのか,あるいは心血管疾患や慢性閉塞性肺疾患などのage-related diseaseなのかを判断し,治療目的が根治的なのか,あるいは姑息的なのかを明確にし,ADLとQOLの維持を十分に配慮し,脆弱性の評価により過大侵襲とならない術式と手技が求められる。
【文献】
1) Suzuki S, et al:Ann Gastroenterol Surg. 2017;2 (1):72-8.
2) Suzuki S, et al:Ann Surg Oncol. 2015;22(5): 1548-54.
【解説】
鈴木知志 神戸大学食道胃腸外科特命教授