日本人の死因第1位であるがんも,新規薬剤の登場などにより長期生存が期待できるようになっているが,がんに伴う症状だけでなく治療に伴う副作用対策を適切に行わないと本来の治療効果を得ることができない。そこで支持療法の発展が重要な課題となっている。漢方薬は末梢神経障害や食欲不振,疲労倦怠感など,既存の薬剤等では対応が困難な症状に対する効果が報告されており,がん支持療法における漢方薬のエビデンスは増えている。
オキサリプラチンは大腸癌治療のキードラッグであり高い治療効果を示している。特徴的な薬物有害反応として末梢神経障害が広く知られている。発現機序についてはいまだ明確になっておらず,発症の予防と治療についてこれまで多くの薬物療法や非薬物療法が報告されているが,その有効性は確立されていない1)。末梢神経障害が日常生活や生活の質に与える影響は大きく,その症状コントロールが課題となっている。
人参養栄湯の適応は,気血両虚に加えて病後の体力低下,疲労・倦怠,食欲不振,寝汗,手足の冷え,貧血,さらに痰・息切れなどの呼吸器症状,不眠・不安などの精神神経症状と幅広いが,現時点では末梢神経障害に対する適応はない。しかし基礎研究においてオキサリプラチンにより短縮した神経様突起の伸長を回復させることが報告された2)。またマウスを用いた研究においてもオキサリプラチンによるアロディニアに対する改善効果が示された3)。さらに進行大腸癌術後の補助化学療法としてCAPOX療法による末梢神経障害と貧血に対する人参養栄湯の有用性に関するランダム化比較試験で複数の症状軽減効果が認められた4)。現在進行中の臨床試験もあり,結果が期待される(表)。
がんサバイバーの増加に伴い治療による副作用,QOL低下など心身の不調を訴える症例が増えており,そのようなケースには人参養栄湯をはじめとした漢方薬が有効である可能性がある。精神症状への効果も期待できる点は魅力であり,人参養栄湯ががん支持療法において広く活用されることを期待したい。