尿路感染症のうち,膀胱を感染部位とするものが膀胱炎である。基礎疾患の有無により単純性と複雑性に分類される。単純性膀胱炎の多くは若年女性が罹患し,主な起因菌はEscherichia coliである。複雑性膀胱炎は,難治性で再発・再燃を繰り返し,起因菌は多岐にわたるため,単純性と区別して対応する必要がある。
検尿で尿中白血球10/HPF以上の膿尿を認め,103CFU/mL以上の細菌尿を認めた場合に尿路感染症と判断する。発熱や腰背部痛などの腎盂腎炎症状がなく排尿時痛・頻尿・尿意切迫感など,膀胱刺激症状・残尿感などを呈する場合,膀胱炎と診断する。
①単純性膀胱炎:若年女性に好発する。排尿時痛・頻尿・尿意切迫感など,膀胱刺激症状・残尿感などを呈する。
②複雑性膀胱炎:基礎疾患として,前立腺肥大症・神経因性膀胱などの排尿障害,膀胱癌・前立腺癌などの尿路系悪性腫瘍,尿路結石症などのほか,糖尿病・免疫抑制薬・抗癌剤治療中など,感染防御能の低下状態が挙げられる。既往に複数回の尿路感染症がある症例が多い。通常は無症候あるいは軽度の頻尿・下腹部不快感を自覚する程度だが,尿路閉塞や菌交代が生じると急性増悪し,症候性となる。
治療の基本は起因菌に対する適切な抗菌薬投与である。
①単純性膀胱炎:起因菌の約80%をグラム陰性桿菌が占め,その90%がE. coliである1)。経口ニューキノロンでは3日間,経口セファロスポリンでは5~7日間の治療を原則とする。内服終了数日後に再度症状と膿尿の有無を確認する。症状の改善があれば,膿尿の残存があっても経過観察してよい。症状の改善がない場合は,感受性試験結果を参考に抗菌薬の必要を考慮するとともに,基礎疾患の有無を確認する必要がある。近年,E. coliの抗菌薬耐性,特にニューキノロン耐性菌およびextended spectrum β lactamase(ESBL)産生菌の頻度が増加しているため,尿培養検査にて起因菌の同定と抗菌薬感受性試験を行うことが必須である。
②複雑性膀胱炎:症状の急性増悪時には,経口抗菌薬によるempiric therapyを開始する。投与後4~5日に症状の確認と尿検査を行い,抗菌薬感受性試験の結果を加味して,狭域スペクトラムの抗菌薬に変更する。複雑性膀胱炎において最も重要なことは,基礎疾患の確認とそれに対する治療,適切な尿路管理であり,抗菌薬加療は補助的な役割である。なお,尿道カテーテル留置中の無症候性の細菌尿は治療が不要である。
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