心房細動を併発した、安定冠動脈疾患(CAD)例に対する至適抗血栓療法は、必ずしも明らかではない。抗凝固薬単剤、あるいは、抗血小板薬併用のいずれが良いのか、確固たるエビデンスが報告されていないためだ。この疑問に、わが国の臨床研究が答えを出した。2000例以上を登録した ランダム化試験 "AFIRE" である。8月31日からパリで開催中の欧州心臓病学会において、安田 聡氏(国立循環器病研究センター)が、9月2日のHOTLINEセッションにて報告した。
AFIRE試験の対象は、日本において安定CADと非弁膜症性心房細動と診断され、「CHADS2スコア≧1」だった2,236例である。直近1年以内に冠血行再建術の既往がある例、現在PCIの適応がある例は除外されている。またステント血栓症既往例も除外された。平均年齢は74歳、71%にPCI既往があり、CABG既往例は11%、残りは冠血行再建術の既往なく、50%以上の狭窄(PCI適応なし)を認めるのみの患者だった。
これら2,236例が、DOAC単剤群とDOAC・抗血小板薬併用群にランダム化され追跡された。盲検化は行われていない。DOACはリバーロキサバン15mg/日(クレアチニン・クリアランス:15-49mL/分例では10mg/日)を用い、抗血小板薬は担当医の判断に任せた。その結果、70%がアスピリン、27%がP2Y12阻害薬を併用していた。
追跡予定期間の終了を待つことなく、併用群における「総死亡」リスク増加が明らかになったため、試験は早期中止となった。観察期間中央値は24.1カ月、有効性1次評価項目「脳卒中・塞栓症・心筋梗塞・血行再建を要する不安定狭心症・総死亡」の発生数は210例だった*。
その結果、有効性1次評価項目の発生率は、DOAC単剤群:4.14%/年、抗血小板薬併用群:5.75%/年で(ハザード比 [HR]:0.72、95%信頼区間 [CI]:0.55-0.95)、DOAC単剤群における非劣性が確認された(P<0.001)。
なお、試験当初の有効性1次評価項目では、「総死亡」ではなく「心血管系(CV)死亡」が採用されていた(2015年8月に変更。ただしDOAC単剤群では、「CV死亡」、「非CV死亡」ともリスクは有意に減少)。
*早期中止試験のイベント総数が200以下だった場合、有効性が実際よりも大きく出る傾向がある [植田真一郎. 論文を正しく読むのはけっこう難しい. 医学書院. 2018]
これら1次評価項目の内訳を見ると、DOAC単剤群と抗血小板薬併用群間で、脳梗塞には有意差がなく(HR:0.73、95%CI:0.42–1.29)、脳出血に著明減少(同:0.30、0.10–0.92)を認めた。
一方、虚血性心疾患は、DOAC単剤群で心筋梗塞HRが1.60(95%CI:0.67-3.87)と増加傾向を認めたが、「血行再建を要する不安定狭心症」HRは逆に0.71(同:0.35–1.44)と減少傾向だった。
また安全性1次評価項目である「ISTH大出血」は、DOAC単剤群で有意に減少していた(1.62%/年 vs. 2.76%/年、HR:0.59、95%CI:0.39-0.89)。
このようにDOAC単剤は抗血小板薬併用に比べ、有効性において非劣性かつ、安全性では上回るという結果となった。
本試験は、報告と同時にNEJM誌にオンライン掲載された。NEJM論文によれば、実施資金を提供したのは「循環器病研究振興財団」である。一方、試験デザイン論文には、「本試験は循環器病研究振興財団が立案したプロジェクトであり、バイエル薬品株式会社の経済的支援を受けた」と記されていた。