【まず,“やせ”が心配であることを伝え,適正体重維持の重要性を理解してもらう】
BMIが18.5未満,または意図しない体重減少がみられる場合(3カ月で5%以上),“摂取エネルギー”と“消費エネルギー”のバランスが負に傾く原因を探ります1)。
“やせ”の原因疾患として,がん,甲状腺機能亢進症等の内分泌疾患のほか,消化器疾患,糖尿病,慢性炎症性疾患(関節リウマチ,結核等),アルコール依存症や精神疾患,臓器不全等がないかを確認します。うつ病や高ストレス状態,薬剤の多用,喫煙により食欲低下をきたしている場合や,口腔疾患(歯周病,口腔潰瘍,咀嚼能の低下)等も見逃さず,各診療科につなげていきます。
上記が除外された場合,まずは,“やせ”がもたらすリスクについて正しい情報を伝えます。“やせ”は死亡率を高め,様々な健康障害につながることを説明し,適正体重を保てるよう食事や生活様式について指導します。総摂取エネルギーだけでなく,糖質,蛋白質が偏りなく摂取できているか,野菜・果物,魚類などを食べているかを確認します。運動不足の場合にはサルコペニアをきたすので,レジスタンストレーニングとウォーキングを推奨します。一方,身体活動量が多すぎる場合には,運動方法の見直しや,エネルギー消費に見合った食べ方を指導します。
次に,女性,高齢者,中高年に比較的よくみられるやせに対する指導を述べます。
やせているのに“やせたい”という願望を持つ場合があり,近年40歳代以上の女性においても,やせ願望が強まっていることに注意が必要です。やせは貧血,月経異常や不妊,サルコペニア,骨粗鬆症等のリスクを高めることを説明し,最低でもBMI 20を保つことが健康上有用なことを知らせます2)。BMI 16未満の場合,理想体重が低い場合,食行動異常(ダイエットと過食を繰り返す,嘔吐する等)の場合には,神経性やせ症を念頭に専門医に紹介するか,注意深くフォローします3)。
食事の準備が面倒で画一的かつ必要な栄養が摂れない食事になる,歯数や咀嚼力の低下,うつ傾向,配偶者喪失による食環境の変化などの原因が考えられます4)。高齢期のやせはフレイル状態につながることを説明し,必要に応じて地域包括支援センター等へ相談を勧めます。
生活習慣病予防や改善のためにエネルギー制限を指導され,体重を減量すれば評価されることから,行き過ぎた食事制限を行って低栄養状態になっている人も少なくありません。“やせ”は危険であることを説明し,栄養バランスの良い食事をして適正体重を維持するよう指導します。
上記に該当せず,BMIは低いが安定している,基礎疾患や自覚症状がない,食事制限はしておらず身体活動量が保たれているなど,健康的と考えられる場合には,“体質的なやせ”と考えられます。体重の維持を目標に,しっかりと食べることを促すとよいと思います。1回に多く食べられない人では,果物などでおやつを入れてもよいでしょう。
【文献】
1) White JV, et al:JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2012;36(3):275-83.
2) 永井成美, 他:肥満研. 2018;24(1):22-9.
3) 鈴木(堀田)眞理:肥満研. 2017;23(3):210-7.
4) 荒井秀典, 編:フレイル診療ガイド2018年版. ライフ・サイエンス, 2018, p28-36.
【回答者】
津下一代 あいち健康の森健康科学総合センター長