無呼吸からの繰り返す覚醒反応が日中の眠気に関係する
遷延する低酸素と間欠的低酸素は生体に与える影響が異なる
間欠的低酸素/再酸素化(intermittent hypoxia/reoxygenation)が動脈硬化病変の成立に関与している
睡眠時無呼吸症候群(SAS)特有の病態は間欠的低酸素であり酸化ストレス増加が病態形成につながる。年単位で継続することにより心血管系障害が出現する
肥満とSASの併存による動脈硬化病変形成に対する相乗効果が問題となる
睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)は,睡眠中に「無呼吸」が繰り返されることにより自覚症状を呈する,ないしは睡眠時無呼吸に起因する種々の合併症を有する症候群である。症状のない患者も治療適応の考慮が必要であるため,症状の有無を問わずに無呼吸を含む呼吸イベントが1時間当たり5回以上ある場合は「睡眠呼吸障害(sleep disordered breathing:SDB)」となる。SASの症状としては,いびき,中途覚醒,日中の眠気,起床時の頭痛などがある。昼間の眠気は,居眠り運転事故や労働災害などにつながり,社会的にも悪影響を及ぼす。これらはSASに対する一般的認識である。この中に「低酸素」は出てこず,「無呼吸」が主役と認識されてしまう。確かに,無呼吸からの繰り返す覚醒反応が日中の眠気に関係する。
生体への遷延する低酸素の影響を考えてみると,生体が高山などの環境で遷延する低酸素に曝露されたときに,うまく適応(adaptation)できる個体と,うまく適応できない(maladaptation)個体がある。適応が良い場合は換気の増加が起こり,生体での低酸素血症の程度が緩和され,運動時の酸素分圧が増加する。一方,適応が悪い個体では換気の増加が十分に起こらず,低酸素血症の程度が緩和されない。その結果,急性高山病・高地肺水腫が惹起される(図1)1)。
低酸素の生体への影響は無呼吸(気道閉塞)ごとに生じている。無呼吸が繰り返し生じているとき,呼吸努力(食道内圧)および上気道開大筋活動(頤舌筋筋電図)は周期的に変動している。呼吸努力が漸減し,それ以上に上気道開大筋活動が低下するときに,換気(気流)は停止して上気道閉塞(無呼吸)が生じる。無呼吸を解除する1つの力が低酸素血症である。上気道閉塞に伴い酸素飽和度が低下することにより,換気再開への呼吸努力が強まる。低酸素血症に対する生体反応の程度は遺伝的にある程度規定されている。低酸素に対する生体の適応現象が強く生じる個体では,無呼吸時の低酸素血症の程度が軽減され換気再開が早まる可能性がある(図2)2)。