【術後合併症により全生存割合は低下する】
消化器癌治療において,手術治療はがん腫を根治せしめる強力な治療手段である。しかし,侵襲に伴う術後合併症と全身状態の低下,治療期間の延長に悩まされる。
食道癌手術は高侵襲の代表格で,術後合併症の頻度は約3~5割程度と非常に高い。反回神経麻痺,肺炎,縫合不全の合併症がその大部分を占め,術後合併症が長期予後を悪化させると報告されている。
cStage Ⅱ/Ⅲに対する手術と補助化学療法に関する臨床試験であるJCOG9907の付随研究にて,肺炎発症群では3年生存割合が59.1%と,非肺炎発症群の66.0%と比して有意に悪化していた。同様に,肺炎を含む感染性合併症群では57.4%,非感染性合併症群のそれは69.2%と,有意に悪化したと報告している1)。また,食道癌手術の術後合併症群は,cStage Ⅱ/Ⅲ/Ⅳでは5年生存割合が42.4%と,そうでない群の55.4%と比較して有意に悪化していたが,cStage Ⅰでは同等であった2)。
このように,術後合併症は全生存割合を低下させるが,IL-6やIL-8などのサイトカイン産生が,がん細胞を賦活化させたり,合併症による長期治療が全身状態を低下させ非がん疾患による死亡を増加させる可能性などが指摘されている。今後,周術期管理の改善や低侵襲手術治療がより広まることにより,肺炎をはじめとする術後合併症の低下,ひいては長期予後の改善が期待されている。
【文献】
1) Kataoka K, et al:Ann Surg. 2017;265(6):1152-7.
2) Nakagawa A, et al:Ann Surg Oncol. 2017;24 (13):3934-46.
【解説】
中村 哲 神戸大学食道胃腸外科准教授