肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)の診断には危険因子・背景因子の存在を考慮し疑うことが重要である。危険因子・背景因子がはっきりしない症例の抗凝固療法終了後,再発率は年次増加するので注意が必要である。画像診断の第一選択は造影CTであり,治療の基本は抗凝固療法である。右心負荷のある症例,バイタルサインが不安定な症例には血栓溶解療法も考慮する。バイタルサインが不安定な症例は予後不良で,迅速な対応と補助循環も考慮する。
PTEの症状で96%に突然の呼吸困難,胸痛,失神のうち1つ以上の症状を認め,これらの3症状がないときの陰性予測率は94%である1)。
危険因子としては,長期臥床,肥満,高齢者,外傷,外科手術,がんなどが報告されている。血栓性素因としては高リン脂質抗体症候群,プロテインC欠損症,プロテインS欠損症,アンチトロンビンⅢ(antithrombin Ⅲ:ATⅢ)欠損症などがある。最も重要なのはバイタルサインであり,低酸素血症,ショック,意識障害,頻脈の合併は死亡率が高い。
D-dimerの上昇は血栓の存在が疑われるが,様々な疾患に伴い上昇するため特異度は低い。
心エコーの役割は,予後と関係する右心負荷の有無をみることである。下肢静脈エコーは深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)の診断に最も感度が高い。多列検出器CT(multi detector row CT:MDCT)は感度・特異度ともに優れており,PTEの確定診断のための画像診断として最も汎用されている。
適切な治療が行われなければ死亡率が約30%と高い致死的疾患であるが,診断が確定した症例については死亡率8%と報告されている。Wellsスコアが低くD-dimerが陰性であれば99.5%で肺塞栓症が否定できる。
治療の中心は抗凝固療法であり,禁忌がない限りは,疑った時点から開始すべきである。ショック,心停止例などの循環不全に対しては強心薬,経皮的心肺補助法(percutaneous cardiopulmonary support:PCPS)などの補助循環,人工呼吸器を使用し,抗凝固療法に加え血栓溶解療法,カテーテル治療,外科的治療法の追加が考慮される。
肺塞栓症重症度指数(pulmonary embolism severity index:PESI)を使用し,低度リスクの場合は,抗凝固療法により治療を開始し,早期退院を検討する。PESIにおいて高度リスクで,高感度トロポニンTまたは右心負荷所見のどちらかが陰性の場合は入院下での抗凝固療法,また,高感度トロポニンTと右心負荷所見がともに陽性の場合は抗凝固療法または血栓溶解療法が行われる。
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