9月に欧州糖尿病学会(EASD)で報告されたRCT "DAPA-HF" 試験では、2型糖尿病(DM)を合併しない心不全例においても、SGLT2阻害薬による「心不全増悪・心血管系(CV)死亡」への作用が示され、大きな話題となった(事前設定サブグループ解析)。本学会では、2型糖尿病非合併例におけるさらに詳細なデータが、John J V Mcmurray氏(グラスゴー大学、英国)により報告された。
DAPA-HF試験の対象は、心不全に対する至適治療下にありながら「左室駆出率(LVEF)≦40%」、かつ血中NT-proBNP値上昇を認める、NYHA分類II~IV度心不全4744例である。SGLT2阻害薬群(ダパグリフロジン10mg/日、2373例)とプラセボ群(2371例)にランダム化され、二重盲検法で18.2カ月間(中央値)観察された。
その結果、糖尿病非合併の心不全例(2605例)のみの検討でも先述の通り、SGLT2阻害薬群ではプラセボ群に比べ、1次評価項目である「心不全増悪(定義後述)・CV死亡」ハザード比(HR)は0.73(95%信頼区間 [CI]:0.60-0.88)と、有意に低値となっていた。両群の発生率曲線は、試験開始直後から乖離を始め、差は試験終了まで開き続けた。発生率で比較すると、SGLT2阻害薬群:9.2%、プラセボ群:12.7%となり(AstraZeneca社リリースによる)、必要治療者数(NNT)は29例という計算になる。
次に1次評価項目の内訳を見ると、SGLT2阻害薬群で著明に減少していたのは「心不全増悪(心不全入院、利尿薬を要した救急外来受診)」(HR:0.62、95%CI:0.48-0.80)のみであり、CV死亡のHRは0.85(同:0.66-1.10)だった。なおいずれも、2型糖尿病合併の有無による有意な交互作用は認められなかった。
次に安全性だが、腎機能増悪(推算糸球体濾過率50%以上の減少、あるいは末期腎不全移行、腎疾患死)はSGLT2阻害薬群:0.8%、プラセボ群:1.2%で有意差はなかった。また「重度低血糖」と「糖尿病性ケトアシドーシス」は、SGLT2阻害薬群、プラセボ群とも1例も報告されていない。治療中止を要する有害事象」の発現率も、プラセボ群:4.5%、SGLT2阻害薬群:5.3%で有意差はなかった。
左室収縮能が低下した心不全(HFrEF)に対する転帰改善作用が示唆された形となったSGLT2阻害薬だが、現在、左室収縮能が維持された心不全(HFpEF)の転帰改善作用を検討するランダム化試験も進行している。エンパグリフロジンを用いたEMPEROR-Preserved試験(NCT03057951)は20年11月終了予定、ダパグリフロジンのDELIVER試験は21年6月に終了の予定だ。
DAPA-HF試験はAstraZeneca社から資金提供を受け実施された。