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不妊症(挙児希望患者の取り扱い)[私の治療]

No.4988 (2019年11月30日発行) P.48

久慈直昭 (東京医科大学産科・婦人科教授)

登録日: 2019-11-28

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  • 不妊症とは,治療をしなければ妊娠が成立しない疾患群である。通常,男女が性行為により妊娠を試みて1年間妊娠しない場合,不妊症であると定義される。また,両側卵管閉鎖など明らかに妊娠を妨げている原因がある場合には,その時点で不妊症と診断して治療を開始する。

    ▶診断のポイント

    【体内における受精障害】

    従来,用いられてきた不妊診断法(子宮卵管造影・卵管通気/通水法,精液検査など)の多くがこれを診断する。両側卵管完全閉鎖等の場合は診断が確定するが,それ以外の場合(卵管周囲癒着,乏精子症,精子無力症など)には確定診断がつかない場合も多い。また,従来の不妊検査でどこにも異常が認められないが妊娠が成立しない,いわゆる「原因不明不妊症」も存在し,年齢とともに増加するが,実際には隠れた原因がある。

    【配偶子の異常】

    この病態の診断は,体外受精・顕微授精〔以下この2つをまとめてassisted reproductive technology(ART)とする〕治療を行って精子が卵子内に入ったことが確認できるにもかかわらず,その後の発生が正常に起こらない,あるいは妊娠が成立しない場合に確定する。実際の臨床では,①ARTで得られた受精卵が拡張胚盤胞(体外受精における最終発生段階)に達しない,②複数回拡張胚盤胞を子宮に移植して妊娠が成立しない,③月経初期血中FSH値20以上,④年齢45歳以上,などの場合に強く疑われる。

    【子宮・母体側の異常】

    子宮内腔の極端な変形を伴う子宮筋腫,子宮内膜増殖不全(排卵期の内膜の厚さが5mm以下)の場合にこの病態を疑う。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    ARTという有効な治療法がある現在,不妊症の原因はその病因およびART治療の有効性から,概念的に体内における受精障害,配偶子・受精卵自体の異常,子宮・母胎側の異常,の3つに分類される。

    【体内における受精障害】

    健常な精子・卵子が存在するにもかかわらず,女性体内において精子と卵子の受精が起こらないことによって妊娠が成立しない病態である。両側卵管閉鎖,あるいは重度精子減少症などが代表的であるが,射精障害・性交障害や,排卵障害もこれに含まれる。この病態単独で,配偶子の異常や子宮・母体側の異常の病態がなければ,ARTを用いることにより(人工的に受精を起こすことができるので)速やかに妊娠は成立する。

    【配偶子の異常】

    精子あるいは卵子に異常があるため妊娠が成立しない病態である。無精子症・卵巣不全もこれに含まれるが,臨床的に最も多いのは,女性の加齢により卵子が個体を発生させる能力を消失している場合である。排卵卵子が個体発生能(以下,妊孕性)を持つ女性の割合は35歳くらいまでは一定であるが,これ以降減少しはじめ,45歳でほとんどの女性が妊孕性を失う。一方,男性では妊孕性を失う年齢は女性ほど明確ではなく,また一般に女性よりその年齢は高い。また,卵巣子宮内膜症がある場合,妊孕性消失は早くなる傾向があると考えられている。

    いったん妊孕性を消失すると,男性・女性とも現在の不妊治療で妊孕性を回復することは不可能で,治療不能となる。

    【子宮・母体側の異常】

    子宮筋腫,子宮内膜異常などによって着床が妨害され,妊娠可能な受精卵が子宮内に存在しても妊娠が成立しない病態をいう。

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