感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE)は,弁膜や心内膜に疣腫を形成する全身性敗血症性疾患であり,発症から診断・治療開始までの期間が長いほど,内科治療のみで治癒する率が低下し,また心臓内・心臓外合併症の発症率が高くなることが知られている。IEと診断されれば全例に抗菌薬を投与するが,病状は刻々と変化するため,常に外科治療の可能性を念頭に置いて治療にあたる必要がある。
まず臨床的に疑うことが最も重要で,IEを疑えばDuke診断基準に基づいて診断を行う。非特異的な症状が多く塞栓症で発症することもあり,この最初のステップが最も難しい。
脳梗塞などの塞栓症,関節痛や腰痛を訴え,循環器内科以外の科に受診することも多い。
抗菌薬の選択や外科治療の適応を決定する上で,原因菌が判明していることが非常に重要であり,抗菌薬開始前に血液培養を行うべきである。好気用と嫌気用の2本を1セットとし,培養は少なくとも3セット提出する。血液採取のインターバルは決まったものはないが,重症敗血症を呈する緊急時には抗菌薬投与を遅らせるべきではなく,2セット以上の採取を1時間以内に行う。
①疣腫,②膿瘍または偽性瘤,③人工弁の新たな裂開,④新たな弁逆流の出現,が診断基準の大項目として挙げられる。積極的に経食道心エコー図検査を併用する。早期には異常を検出できないことがあるため,臨床的に疑わしい場合は,3~7日後に再検査を行う。
CT,MRI,Gaシンチ,FDG-PET(現時点で保険適用は認められていない)などは,心内・心外合併症の診断に有用である。
疣腫には,きわめて多量の細菌が存在している。さらに疣腫自体は血流に乏しいため,通常の抗菌薬の投与量・期間では十分な治療効果が得られず,再発のリスクが高くなる。したがって,IE治療では原因菌を死滅させ再発を防ぐ目的で殺菌的な抗菌薬を選択し,高用量で長期の抗菌薬治療が行われる。原因菌の種類と抗菌薬感受性に基づき,薬物治療モニタリングも利用しながら治療を進める。薬剤アレルギーによる薬剤変更,低感受性菌や多剤耐性菌,グラム陰性菌,真菌における薬剤の選択と併用療法,副作用を伴う場合などの投薬方法などに関しては,感染症医や薬剤師へ積極的に相談する。
IEは急性期に外科的治療を行わなければならないことがしばしばある。その時期を逸することがないようにフォローすることが,IEの治療においては最も重要なことである。
血液培養提出後,結果判明前にエンピリックに抗菌薬治療を開始する。IEにおける原因菌の上位3菌種は,レンサ球菌属とブドウ球菌属,腸球菌であり,基本として,これらをカバーするものを選択する。自己弁か人工弁か,そのほか臨床背景を参考に選択される。原因菌が判明した後は,その薬剤感受性に基づいて,有効な抗菌薬が選択される。注射薬のないものやバイオアベイラビリティが十分高い一部の薬剤を除いて,経静脈的に投与する。
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