【狭骨盤男性や巨大腫瘍患者においても,より確実な直腸間膜全切除(TME)が施行可能】
直腸癌における手術の原則は直腸間膜全切除(total mesorectal excision:TME)であるが,狭骨盤の男性や腫瘍が巨大な患者においては,鏡視下手術を用いてもTMEが困難なケースにしばしば遭遇する。
近年,経肛門的にTMEを行う術式transanal TME(ta-TME)が注目されている。ta-TMEは2010年にLacyとSyllaらによって初めて報告された術式であり1),肛門に単孔式用プラットフォームを装着し,鏡視下手術の要領で直腸内腔側からdown-to-upにTMEを行う方法である。通常の腹腔側からのアプローチと併用して2チームで手術を行うことで,手術時間が大幅に短縮する。また,狭骨盤男性や巨大腫瘍患者においても,肛門からアプローチできるため,より確実にTMEが施行可能と考えられている。一方,欠点もある。それは,肛門側からみた骨盤臓器解剖に馴染みがないため,手術操作がきわめて困難なことである。実際にta-TME特有の合併症として尿道損傷なども報告されている2)。
今後この術式が普及するためには,national databaseレベルでの安全性の評価や長期の腫瘍学的成績の評価,そしてロボット手術との比較検証が必須であると思われる。
【文献】
1) Sylla P, et al:Surg Endosc. 2010;24(5):1205-10.
2) Penna M, et al:Ann Surg. 2017;266(1):111-7.
【解説】
松田 武 神戸大学食道胃腸外科特命准教授