【質問者】
早稲田優子 福井大学医学部病態制御医学講座 内科学(3)
【培養検査やLAMP法を用いた細菌学的診断とワクチン接種歴を加味した上で主に抗PT-IgG抗体による血清学的診断を行う。治療はマクロライド系抗菌薬を5日程度用いる】
百日咳菌(Bordetella pertussis)が主な病因となり,百日咳菌が産生する百日咳毒素(pertussis toxin:PT)が症状の本態と考えられています。2018年1月から感染症法に基づき,5類感染症・全数把握疾患となっています。
1994年の予防接種法の改正で,3種混合ワクチン〔ジフテリア,破傷風,百日咳(Diphteria,Tetanus,acellular Pertussis:DTaP)〕は集団接種から個別接種に変更されています。百日咳の発症予防は,抗PT抗体が10EU/mL以上とされますが,初回接種(生後3~12カ月)後の5年後には抗PT抗体の保有率は93%から5歳頃には20%台に低下すると報告されています1)。
2012年11月からポリオの生ワクチンから不活化ワクチンへの切り替えに伴い4種混合ワクチン〔DTaP-ポリオウイルス(inactivated polio vaccine:IPV)〕が定期接種ワクチンとして導入され,1期初回接種(生後3カ月から20日以上の間隔を空けて3回)し,1歳過ぎに追加接種を1回行い(通算4回目),第2期として2種混合ワクチン〔ジフテリア,破傷風(DT)〕トキソイドを11歳以上13歳未満に1回接種となっています。この就学前の時期にDTの代わりにDTaPを接種し(通算5回目)抗PT抗体のブースター効果を狙うことが可能ですが,その場合は任意接種となり,国内での有効性と安全性を示した報告はないのが現状です。
実際に抗PT抗体の低下を反映しているためか,わが国での百日咳は,2016年では10歳以上が全体の約50%,20歳以上が約25%を占めており1),成人にいたっては正確なデータがないのが現状です。
百日咳は鼻咽頭や気道からの分泌物による飛沫感染,および接触感染であり,家族内感染や地域での流行などが起こりえます。①カタル期(約2週間持続)と呼ばれ,感冒症状で始まり咳が増加,②痙咳期(約2~3週間持続):発作性痙攣性の咳(痙咳),これは短い咳が連続的に起こり(スタッカート),続いて,息を吸うときに笛の音のようなヒューという音が出る(笛声:whoop),③回復期(約2~3週間持続)の3つに分類され,まさに100日続く咳となります。痙咳期には咳と一緒に嘔吐することがあり,筆者は咳のために診察室で失神した症例を一度経験したことがあります。
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