先天性QT延長症候群(LQTS)のリスク評価にはQTcが重要で,QTc≧500msecが心イベントの高リスクである
学童期を超えると女性のほうが高リスクとなる
遺伝子検査が診断およびリスク評価に用いられる
先天性QT延長症候群(long QT syndrome:LQTS)は,QT間隔の延長と多形性心室頻拍(torsades de pointes:TdP)を認め,失神や突然死の原因となる症候群である1)。先天性LQTS症例における突然死リスク評価は非常に重要であり,いくつかの視点からリスク評価のポイントを述べる。
QT間隔は,先天性LQTS症例における失神・突然死(心イベント)リスク評価の中で最も重要である。日常診療でも安静時12誘導心電図を記録することで,簡便に測定できるので汎用性もある。Mossらは,QTc≧500msecが心イベントのリスクの予測因子となり,特にQTc≧600msecではリスクが高いことを報告している2)。QTcと心イベントリスクについてはその後も報告されており,LQT1では,Hobbsらが,QTc>530msecの例はQTc<500msecの例に比べて3.25倍心イベントが多いことを3),また,LQT2では,Shimizuらが,QTc>530msecの例はQTc<460msecの例に比べて3.33倍心イベントが多いことを報告している4)。Prioriらも,LQT1とLQT2でQTc≧500msecが,心イベントの予測因子であることを報告している5)。LQT3でも,2016年にWildeらが,QTc≧500msecや失神歴を有する例では心イベントリスクが高いことを報告している6)。MazzantiらはQTcが10msec延長すると心イベントが15%増加すると報告している7)。
このように先天性LQTS症例では,QTcが非常に重要で,いずれのタイプでも,QTc≧500msecが心イベントリスクの重要な予測因子であることがわかる。
わが国の「遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年改訂版)」8)でも,QTc≧500msecが心イベントの高リスクであることが記載されている(図1)。QTcが長いことが高リスクであることを受けて,HRS/EHRA/APHRS合同ステートメントでは,先天性LQTSの薬物治療としてのβ遮断薬は,失神やVT/VFの既往を有する例に加えて,症状の有無に関係なくQTc≧470msecの例で推奨となっている9)。
わが国のガイドラインでも8),β遮断薬投与の適応は,失神の既往やVT/VFを認めた症例,および無症候でQTc≧470msecの症例では,クラスⅠとなっている。